Pioneer SC-LX59でDolby Atmosを聴く

オブジェクトベースオーディオとトップスピーカー


 『アメリカン・スナイパー』は正直イマイチだったが、気を取り直して、今手元にあるDolby Atmos収録のソフトを片っ端から聴いていく。
 気付けば、オブジェクトベースオーディオ収録ソフトもこれだけの数になった。なお、写真右下3枚はDTS:Xのソフトである。
20160923dolby-atmos


 各作品の聴きどころあるいは特にトップスピーカーが活躍しそうなシーンを見て、とりあえず単純にトップスピーカーがどれくらい鳴っている/活用されているか、そしてオブジェクトベースオーディオが最終的な映像体験にどれだけ良い効果をもたらしているかを評価する。
 たとえトップスピーカーからドンドコ音が鳴ったところで、一時的に「上から音が鳴ってる! すげえ!」と喜ぶことはあっても、それが体験全体の質を引き上げなければ結局は意味がないのである。

 なお、現在の私のシステムはトップスピーカー4本以外のスピーカーをすべて外部パワーアンプで鳴らしているため、それらのアンプを切ることで容易にトップスピーカー単独の音を確認可能である。


トップスピーカーを含む6.1.4chの配置



『ジョン・ウィック』
音質評価:9→変化なし

主に見たシーン:クラブに殴り込み
トップスピーカーの活用:中
オブジェクト効果:極小

 トップスピーカーは音楽と銃声の反響音に使われるのみ。これらはかなり明瞭に鳴るため、ある意味ではしっかりと活用されていると言える。
 本作のサラウンドを構成する各要素は既にチャンネルベースで十全に再現されており、Dolby Atmosになったところで伸びしろはほとんどなかった。



『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』 UHD BD
音質評価:14→変化なし

主に見たシーン:両雄激突・トリニティvsドゥームズデイ
トップスピーカーの活用:大
オブジェクト効果:中

 トップスピーカーには曖昧さのない、映像演出に明確に対応した音が割り振られている。雨が降り注ぎ、雷鳴が響き渡る。バットウィングが頭上を掠めて飛んでいく。ドゥームズデイの体からスパークが迸る。スーパーマンが大気圏に突入した音が降ってくる。背の高いドゥームズデイの雄叫びが上から放たれる。
 Dolby Atmosの再生はさらに濃密な包囲感と鋭い移動感をもたらすが、チャンネルベースでの再生の時点で非常にレベルが高く、さらにダイアローグの質感という問題を抱えたままなので、音質評価は据え置き。



『マン・オブ・スティール』 UHD BD
音質評価:14

主に見たシーン:vsファオラ&大男・ラストバトル
トップスピーカーの活用:中
オブジェクト効果:中

 トップスピーカーの活用は意外と音楽がメイン。効果音はメトロポリスを木端微塵にするラストバトルよりもvsファオラ&大男のシーンで顕著に割り振られている。カメラの頭上を飛び去るA-10の軌跡がさらに力強さと鋭さを増す。機関銃・ミサイル等も盛大に頭上から降り注ぐ。
 DTS-HD Master Audio 7.1ch収録のBD版(音質評価:13)と比べて定位感・移動感・包囲感に一層の深化あり。



『アメリカン・スナイパー』
音質評価:12→変化なし

主に見たシーン:トップスピーカーが鳴るシーンを求めていろいろ
トップスピーカーの活用:極小
オブジェクト効果:極小

 オープニングで緊張感を醸成する不愉快な効果音はなぜかトップスピーカーからも全開で鳴る。それ以外では、主人公が狙撃を投げ出して建物への突入に同行した際、映像に映っていないヘリコプターが、素晴らしく明瞭な移動感を伴って頭上を右から左に飛び去って行くのが印象的だった。これくらいで、あとはとにかく鳴らない。上下方向にも展開し巨大な砂嵐までやってくるクライマックスの銃撃戦でもまったく鳴らない。
 トップスピーカーを含むオブジェクトベースオーディオの効果は限りなく小さいと言わざるを得ないが、これは既にチャンネルベースで素晴らしい音響構築が成されているからであって、本作の音の完成度を貶めるということではない。



『Sicario / ボーダーライン』 UHD BD
音質評価:13

主に見たシーン:渋滞・トンネル
トップスピーカーの活用:中
オブジェクト効果:小

 飛び去るヘリ、頭上への着弾と舞い散る砂礫、機会は少ないながらも非常に明瞭かつ的確な音がトップスピーカーから飛んでくる。環境音と音楽もトップスピーカーに振られている。
 本作は『ノーカントリー』のように静寂が支配する作品であり、要所要所でトップスピーカーの的確な活躍はあれど、全体として映像体験を激変させるものではない。



『ターミネーター:新起動/ジェニシス』
音質評価:14→15

主に見たシーン:未来・隠れ家~バス
トップスピーカーの活用:大
オブジェクト効果:

 グラウンドレベルと遜色のない存在感の音がトップスピーカーに割り振られ、しかも映像展開と完璧に一致する。
 上を見るおっさんを正面から映すカット。トップリアからバチバチと凄まじい音がする。そして次のカットで、視界の上にタイムトラベルの光球が映る。トップフロントからバチバチと凄まじい音がする。
 サラとカイルとシュワちゃんが乗るバスの上に敵が降り立つ。トップの右からゴンゴンと足音がする。シュワちゃんの目線が右上を向く。トップの左からゴンゴンと足音がする。カイルの目線が左上を向く。
 そうそう、こういうのが聴きたかったんだよ!!!!



『チャッピー』 UHD BD
音質評価:14

主に見たシーン:ムース(多目的二足歩行戦車的なアレ)来襲
トップスピーカーの活用:中
オブジェクト効果:中

 オブジェクト効果云々以前に、DTS-HD Master Audio 7.1ch収録のBD版(音質評価:13)に比べて明らかに音圧が増している。音質評価のプラスは主にこの部分である。いいぞもっとやれ。
 空高く上昇した後拡散投下されるクラスター爆弾やムース飛翔など、上方向が意識される部分で的確にトップスピーカーが活用されている。要所要所で音楽も積極的に割り振られている。
 とはいえ威力はそれほどでもないため、グラウンドレベルの音に埋もれてしまいがち。



『トランスフォーマー ロストエイジ』
音質評価:14→変化なし

主に見たシーン:吸い上げて落とす
トップスピーカーの活用:中
オブジェクト効果:小

 ブブブボボボオオォン。あとは申し訳程度の音楽と、意図が掴めないほど稀に、思い出したかのように鳴る効果音。ブブブ以外にもトップスピーカーに割り振るべき音はいっぱいあると思うのだが、まるで振るわない。
 なおグラウンドレベルの時点でぶぶぶの上方向の情報量はじゅうぶんに出ていたので、オブジェクト効果はそれほどでもなかった。



『エクスペンダブルズ3』
音質評価:14→変化なし

主に見たシーン:一連のラストバトル
トップスピーカーの活用:小
オブジェクト効果:小

 なぜか声がトップスピーカーに積極的に振られている。反響の演出なのだろうが、いまいち意図が不明。
 あとは音楽での使用が少々。期待していた効果音での活用はまったくと言っていいほどなかった。
 映像体験を深化させるには到らず。残念。



『ピクセル』
音質評価:15(レビュー記事はまだ)

主に見たシーン:センチピード・ゲーマー最後の戦い
トップスピーカーの活用:大
オブジェクト効果:極大

 これぞサラウンドジャンキーの夢
 白眉はセンチピードのシーン。天空から降り注ぐキノコとムカデ。それらを迎え撃つ光線砲の火線。重く鋭く華々しくピコピコと、上から下に下から上に交錯し、弾けて光ってピクセルと舞い散る。
 なんとか星人による侵略シーンは、画面と画面外を埋め尽くすあらゆるピクセル・キャラクターの音があらゆる方向からピコピコ炸裂し、あらゆる方向にピロピロ躍動する。
 オブジェクトベースオーディオの理想を体現する完璧な定位感・移動感・包囲感、「空間の中を自由自在・縦横無尽に音が動く」様の素晴らしさ。
 こういうのが聴きたかったんだよ!!!!!!!



『アメイジング・スパイダーマン2』 UHD BD
音質評価:15(レビュー記事はまだ)

主に見たシーン:エレクトロ戦・グリーンゴブリン戦
トップスピーカーの活用:大
オブジェクト効果:

 DTS-HD Master Audio 5.1ch収録のBD版(音質評価:13)に比べて、空間性の向上が著しい。
 縦横無尽に飛び回るスパイダーマンとエレクトロの雷撃迸る死闘にトップスピーカーからの音が完璧に追随し、威力・音の豊富さも申し分なし。グリーンゴブリンの哄笑も上からヒャッヒャッヒャッヒャとそりゃもう面白く降ってくる。
 感心したのは音楽の活用で、単純にBGMをそのまんまトップスピーカーからも鳴らすような使い方ではなく、トップスピーカーまで考えられた周到なミックスが施されている。さらに音楽で、トップスピーカー4本の間で完全なステレオ音場まで構築されているのにはたまげた。アクション映画的な外連味だけでなく、音楽での活用においてもオブジェクトオーディオの可能性の大きさが垣間見えた。
 『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』『ダークナイト ライジング』と並び、蜘蛛男もアメコミ映画で最高峰の音を実現した作品となった。



『デッドプール』 UHD BD
音質評価:11→変化なし

主に見たシーン:オープニング・ラストバトル前半
トップスピーカーの活用:中
オブジェクト効果:小

 超が付くほど真面目に、カメラワークと連動した本当に鳴るべきシーンでしかトップスピーカーが鳴らない。逆に言えば鳴るべきシーンではしっかり鳴る。タクシーの天井にくっついたガムをひっぺがす音までしっかり鳴る。威力もじゅうぶん。音楽での利用は無し。
 ただ、鳴る機会が少なすぎるのと、あまりオブジェクトが活きるような音響でもないため、チャンネルベースから特段の深化があるわけではなかった。



『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
音質評価:13→変化なし

主に見たシーン:オープニング・ラストバトル前半
トップスピーカーの活用:小
オブジェクト効果:小

 なぜかほとんどのセリフがトップスピーカーからも普通に鳴る。オープニングを見てそういう演出なのかと思ったが、屋外でも屋内(車内)でも生きた人間でも幽霊でもお構いなしにトップスピーカーからセリフが鳴る。謎。そしてじゃんじゃか鳴ってほしい効果音はほとんど鳴らず、音楽でもたいした活用はない。
 より脳天直撃の狂気的音響を期待したのだが、残念。



 というわけで、Dolby Atmos収録ソフトを13本片っ端から聴いた。
 効果の有無の差は大きく、「チャンネルベースから何にも変わらねえ!」から「こういうのが聴きたかったんだよ!」まで様々。

 オブジェクトベースオーディオに関する結論めいたものは自分の中で出来上がったが、それはSC-LX59をアップデートしてDTS:Xを聴いてからにしよう。



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