ネットワークオーディオでは、「サーバー」・「プレーヤー」・「コントロール」の三要素が独立している。

 そして独立しているからこそ、様々な利点が生じる。

 音源を特定の機材と一蓮托生させるリスクを限りなく低減できたり、
 ネットワークにサーバーを追加していくことで事実上無限の音楽ストレージが使えたり、
 プレーヤーの純正アプリがゴミでも他の優秀な汎用アプリが使えたり、
 すこぶる気に入ったコントロールアプリを様々なプレーヤーで使い回せたり、

 コントロールを汎用アプリに丸投げすることでプレーヤーの製作に専念できたり、
 別の要素で不具合があっても「うちはそんなの知りません」とサポートを放棄できたり。

 最後は少し脱線したが、とにかくユーザー・メーカーともに得をする点が多い。

 ただ、これらは基本的にDLNA/UPnPあるいはOpenHomeに基づく相互接続性・互換性――「汎用性」によって実現されるものだ。
 プレーヤーをとりまくサーバーとコントロールアプリが汎用的に使えるからこそ、ユーザーは多くの選択肢と高い自由度を得る。

 しかし、ネットワークオーディオにおけるこのような汎用性は、最終的なユーザビリティにどれだけ寄与する、あるいはしてきたのだろうか?
 最近こんなことを考えるようになった。



 今でこそ純正・専用・汎用問わず数多のコントロールアプリが溢れているが、SongBook DSPlugPlayerくらいしかまともなアプリが存在しない時代もあった。
 当時のSongBookは名前の通りLINN DS専用アプリで、PlugPlayerはDLNA/UPnP準拠の汎用アプリだった。完成度はSongBook DSの方が比較にならないほど高かった。
 それから間もなくしてChorusDSが登場し、コントロールアプリの完成形を示した。そして言うまでもなく、ChorusDSもまたDS専用アプリだった。

 当時の状況を回顧すると、(もしかしたら今でもそうかもしれないが)プレーヤーとコントロールの独立関係があまり理解されていなかったため、単に「LINN DSは操作性が良い」と一言で片付けられていた感がある。厳密には「LINN DSは優れたコントロールアプリが使える」と理解するのが正しい。
 しかし、SongBook DSもChorusDSもDS専用のアプリである。そしてよくよく考えてみれば、あくまでプレーヤーとコントロールは空間的に独立しているといっても、これらの専用アプリはプレーヤーと一対一で結び付いている。そのため、「LINN DSは操作性が良い」と一言で言ってしまっても、決して間違いではないのだ。

 事実、LINN DSというプレーヤーのユーザビリティにおける玉座はまったく揺るがなかった。
 有象無象のコントロールアプリが登場したところで、それらの完成度がChorusDSにかすりもしなかったことはもちろん、他の理由もある。
 SongBookがDS専用の座を返上してSongBook Liteとして汎用アプリとなっても、なぜか汎用アプリとして使えるLINN純正のKinskyが登場しても、そもそも多くのネットワークオーディオプレーヤーではそれらをまともに使うことができなかった。ギャップレス再生、オンデバイス・プレイリスト、諸々の動作安定性。同じ汎用アプリを使ってさえ、LINN DSとその他のプレーヤーではユーザビリティに圧倒的な差があった。一応、使えはする。しかし、まともに使えない。
 ChorusDSという強力すぎるアプリが実現するLINN DSのユーザビリティに対し、汎用アプリでもって対抗しなければならなかったその他のプレーヤーは、実は汎用アプリを機能させるプラットフォームとしても、まったくLINN DSに及んでいなかったのである。(純正アプリの完成度はお察しください)
 これは結局のところ、コントロール以前に、プレーヤーが「快適な音楽再生を実現・保証するプラットフォーム」として完成していたのがLINN DSだけだったということを示している。ネットワークオーディオのシステムにおいてどれだけプレーヤーが受動的かつ目立たない存在とはいえ、やはりその完成度は全体のユーザビリティに著しく影響する。

 ChorusDSという専用アプリの完成度で他を凌駕し、純正アプリのKinskyを汎用アプリとして開放してなお、汎用アプリ全般への対応力でも他を圧倒。
 LINN DSがいかにネットワークオーディオプレーヤーというジャンルで一強だったかが分かるというものだ。 

 LUMIN、そしてLUMIN Appの存在を知るまで、私の中で「LINN DS & ChorusDS」連合の圧倒的なヘゲモニーが続いていた。
 それが今では「LUMIN & LUMIN App」連合に取って代わられているのだから世の中何があるかわからない。
 さて、次はどうなるかな?

 LINN DSも、LUMINも、ともに「快適な音楽再生を実現・保証するプラットフォーム」として完成しているプレーヤーである。まっとうに作られたいかなる汎用アプリも十全に機能する。
 しかし、私がLINN DSやLUMINを選んだのは「快適な音楽再生を実現・保証するプラットフォーム」――高い汎用性を発揮するからではなく、極めて優れた専用アプリの存在が決め手だった。
 すなわち、「ChorusDSが使えるからLINN DSを使っていた」のであり、「LUMIN Appが使えるからLUMIN A1を導入した」のである。厳密にはLUMIN以外でもLUMIN Appが使えるプレーヤーはあるが、それはそれ。
 音質? ディスクプレーヤーならばまだしも、少なくともネットワークオーディオプレーヤーを買う際に音質は最優先事項ではない。さすがに酷すぎるとなれば話は別だが。

 汎用アプリでは専用アプリの完成度に究極的には及ばない。
 時として機能面でより充実することはあっても、動作速度や安定性という点では、プレーヤーと一対一で作り込まれている専用アプリには及ぶべくもない。
 もっとも、BubbleUPnPSongBook HDといった優れたアプリがある以上、専用アプリが真に汎用アプリを完成度で凌駕することは相当に難しいこともまた確かである。

 プレーヤーが「快適な音楽再生を実現・保証するプラットフォーム」として完成していることを前提とすれば、ユーザビリティの優劣はコントロールアプリの完成度で決まる。
 そしてこの時こそ、「極めて優れた専用アプリ」の存在は、それと結び付いたプレーヤーのこのうえない強みとなる。
 「コントロールを汎用アプリに任せたプレーヤー」は、ユーザビリティの究極的な完成度において、「優れた専用アプリを有するプレーヤー」に敵わない。
 もしChorusDSもLUMIN AppもBubbleUPnPもSongBook HDもLightning DSも存在しないとすれば、私はネットワークオーディオプレーヤーなんか使わず、躊躇なく「JRiver & JRemote」の組み合わせを選択するだろう。DLNA/UPnPやOpenHomeの仕組みに拠らずとも、これも立派なネットワークオーディオに他ならない。

 当然の帰結かもしれないが、究極のユーザビリティを実現するのはやはり汎用ではなく専用の組み合わせということだ。

 
 
 ここまでは三要素のうち、プレーヤーとコントロールの話である。

 サーバーに関して言えば、未だに「汎用」ということが前提となっている。
 ハードをオーディオ的に作り込んだとしても、内部で走るサーバーソフトは「どのプレーヤー&コントロールアプリと組み合わせても使える」というのが基本だった。
 純オーディオ用高音質サーバーとして今を時めくDELAも、内容的にはあくまで汎用サーバーだ。

 ところが、最近になって、徐々にではあるがサーバーにも「専用」のにおいを強く感じさせる製品がハード・ソフトともに現れた。
 その例が、LUMIN L1Kazoo Serverである。

 LUMIN L1は完全にLUMINオリジナルのハードとソフトによって構成されている。
 LUMIN以外のプレーヤーでもUPnPサーバーとして使用可能だが、実質的にLUMIN専用サーバーとして捉えることができる。
 LUMIN L1のナビゲーションツリーだけでは「アルバム」「アーティスト」「ジャンル」「フォルダー」の四種類しかないが、LUMIN Appと組み合わせることで「アルバムアーティスト」「作曲者」を含む多くの項目が使用可能になるため、あまり問題にならない。
 さらに、LUMIN Appは最初にサーバーの音源情報をことごとく取り込んで動作の高速化を図るのだが、その際の情報取得の速さがLUMIN L1と他のサーバーでは段違い。他のサーバーではそれなりに時間がかかる場合もあるが、LUMIN L1を使えば文字通り一瞬で終わる。一度表示されてしまえばデータがキャッシュされるので差がなくなるとはいえ、初回のアルバムアートの表示速度も圧倒的である。
 基本的にLUMIN Appはどのサーバーソフトと組み合わせても他のアプリとは隔絶したパフォーマンスを発揮するが、それでもなおLUMIN L1と組み合わせた際の動作速度は抜きん出ている。
 ついでに言えば、LUMIN L1と組み合わせるとチートかと思うくらいに音質向上があることも事実だ。

 Kazoo Serverはあくまでサーバーソフトなので、LUMIN L1よりも「専用」の色は薄い……と思いきや、そんなことはない。
 コントロールアプリのKazooは、Kazoo Serverとの組み合わせが前提となっている感がある。Kazoo Serverと組み合わせなければ意図された機能が使えず、さらに動作もガタガタというなかなか難儀な仕様。さらに、Kazoo Server以外のサーバーソフトを使う場合と、Kazoo Serverを使う場合では、Kazooのインターフェースがそもそも異なる。
 つまり、Kazoo Serverとは、組み合わせるコントロールアプリそれ自体の挙動にまで影響を及ぼす画期的な(?)サーバーソフトなのである。
 コントロールに対する影響力を考えれば、ハード・ソフト一体のLUMIN L1よりも「専用」の色が濃い。

 LUMIN L1も、Kazoo Serverも、コントロールの挙動に明確な影響を与えるという点で従来の「汎用」サーバーとは一線を画する。
 それぞれ同一メーカーの製品と組み合わせた際に最大のパフォーマンスを発揮するが、プレーヤーとコントロールアプリのように、完全に同一メーカー「専用」サーバーにはなっていない。とはいえ、LUMIN L1はともかく、Kazoo ServerをKazoo以外と組み合わせる意味は感じられない。

 いずれにせよ、サーバーの領域にも「専用」という考え方が入り込みつつあることは事実である。
 はじめに言った通り、ネットワークオーディオは「サーバー」・「プレーヤー」・「コントロール」の三要素から成る。そのすべてをひとつのメーカーで揃えることができれば、ユーザーは汎用品にありがちな相性問題から解放されるし、専用の組み合わせならではの突き詰めたユーザビリティを享受できる。作る側としても、他のメーカーに対する優位性として訴求することができる。



 使い物にならないメーカー純正アプリを我慢して使い続けるくらいなら、汎用アプリの選択肢がいくらでもある。
 しかし、汎用アプリは究極的には一対一で作り込まれた専用アプリには敵わない。

 「音源」という巨大な共通要素を抱えるサーバーは、長らく汎用的に使えることが基本にあった。
 しかし、そんなサーバーとて、特定の組み合わせ専用に作り込めばユーザビリティをさらに磨き上げることは当然可能となる。
 例えばAurenderのようにストレージを内蔵する製品などは、実質的な「専用サーバー」を内的に実装していると考えることもできる。実際にアプリを含むAurenderのユーザビリティのトータルの完成度は素晴らしい。


 ネットワークオーディオの領域は、DLNA/UPnP/OpenHomeというオープンな仕組みを活用することで、サーバー・プレーヤー・コントロールに多様な選択肢を許容してきた。
 しかし、ユーザビリティを突き詰めようと思えば、結局は汎用性を排した専用の組み合わせに行き着くのだろうか。

 こうなれば、もはやDLNAもUPnPもOpenHomeも必要なくなる。
 PCの再生ソフトとコントロールアプリの組み合わせのように、完全に一対一のシステムにすればそれで事足りる。
 そして、それは別に悪いことでも何でもない。
 大切なのは快適な音楽再生を実現することであって、どのような仕組みを用いるかではない。



 汎用と専用、どちらが優れているかは私には判断しかねる。

 汎用は汎用であるがゆえに、特定の組み合わせのために作り込むことができない。
 そして専用は汎用性のなさゆえに、進化の袋小路に入り込んで自滅することだって往々にしてある。


 過去からの流れを把握し、未来への展望を考えながら、「今」手に入り得る最高のユーザビリティを追い求めていくしかない。

 ネットワークオーディオは『快適な音楽再生』のためにこそある。



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