こんにち、細かいことを気にせずともまともな音楽再生機器として使い得る「OpenHome対応ネットワークオーディオトランスポート」はそれなりに存在する。


 安価なものでは、私がファイル再生の領域において2018年最大のトピックと考えるSoundgenic(HDDモデル)がある。

 その次の価格帯だと、フルスペック&多機能なOpenHome対応ネットワークオーディオトランスポートとして価格破壊を起こしたSOtM sMS-200が存在する。(今はモデルチェンジを経て「sMS-200 Neo」になっている)

 その次の価格帯だと、主にRoonとの絡みで私も幾度となく話題に出してきたSonoreultraRenduが最近日本に導入された。
 また、この辺の価格帯にはストレージを内蔵するミュージックサーバーという立ち位置ながら、DELAのN1AやN100がある。

 手に入りやすい価格帯に使いやすく、スペック的にも申し分ない製品が存在するというのは実に喜ばしいことだ。長い歴史の果てに良い時代となっている。


 問題があるとすればこの上の価格帯である。

 fidataのHFAS1シリーズやDELAのN1ZのHDDモデルは30万円~40万円。
 fidata HFAS1-XS20やDELAの上位モデルは60万円~70万円。

 純粋なネットワークオーディオトランスポートとなると、ESOTERIC N-03Tが78万円、LUMIN U1が約120万円。OpenHome対応という枠内からは外れてしまうが、dCS Network bridgeを入れるとしても65万円。

 つまり、「それなりのサーバーとそれなりのDACを既に持っているから、新たにそれなりのネットワークオーディオトランスポートを導入したい」となった時、意外に高いハードルが立ちはだかっていたわけである。fidataやDELAをネットワークオーディオトランスポートとして使うのもおおいにアリだと私は思うのだが、やはり専用機がほしいという要望もあるだろう。
 ネットワークオーディオトランスポートの製品に穴が開いた状況は、DACを内蔵するプレーヤーならばSFORZATO DSP-PavoやらLINN MAJIK DSMやらESOTERIC N-05やら、いい感じの製品がいい感じの価格帯に存在するのとは対照的と言える。

 「ミドルクラスのDACと組み合わせるのにちょうどいい感じのネットワークオーディオトランスポート」の存在は、ネットワークオーディオの領域を盛り上げるうえで重要だ。
 「ま、価格帯的にオーディオ用PCを作れば別にそんなのなくてもいいや」、と言うわけにもいくまい。


 そんな状況で先日日本に導入されたLUMIN U1 MINIは、まさに「ミドルクラスのDACと組み合わせるのにちょうどいい感じのネットワークオーディオトランスポート」になり得る存在といえる。



・外観

 筐体はD2と共通。


 入出力は上位機にあたるU1と同等。
 USB端子が二つあるので、USB DACと繋げつつ、USBストレージを繋いで本機を事実上のミュージックサーバーとして使うことも可能。

 ただし、U1が768kHz/32bit・DSD512の出力に対応するのに対し、U1 MINIは384kHz/32bit・DSD256までの対応とスペックに差が付けられている。U1 MINIの時点で完全に必要十分なスペックではあるのだが、一応要注意。


 ちなみにU1 MINIは電源にスイッチング電源を使用しているが、「ピー」といった音が漏れ聞こえることはなく、完全無音である。



・運用

 LUMIN Appとの純正組み合わせにより、ユーザビリティは相変わらず最強。
 「プレーヤー」としての完成度の高さに一切の不満はない。




 PCM系もしくはDSD64までならDSD128にアップサンプリングしての出力が可能。



 ついでにMQAのコアデコードにも対応する。
 MQAをコアデコードするとディスプレイの表示がちょっと奇妙なことになっていたが、まぁその辺はどうでもいい。

 
 本機はRoon Readyであり、RoonのOutputとしての動作も完璧。
 ディスプレイ表示もしっかりRoonと連動する。






・音質所感

 「ミドルクラスのDACと組み合わせるのにちょうどいい感じのネットワークオーディオトランスポート」というのがLUMIN U1 MINIの価値だと私は思っているのだが、あいにく私はいい感じのミドルクラスのDACを持っていない。DSP-DoradoのUSB入力を使うというのもなんか違う。


 というわけで、はたして「ミドルクラスのDAC」として扱っていいか微妙なところではあるが、LUMIN U1 MINIと組み合わせるDACとしてOPPO UDP-205を使うことにした。少なくとも、機能と仕様と性能的にUDP-205はすごくいい感じである。



 また、UDP-205は申し訳程度のネットワークオーディオプレーヤー機能を備えているため、以下のような比較が行える。

①UDP-205をネットワークオーディオプレーヤーとして使って聴く
②UDP-205をUSB DACとして使い、U1 MINIをネットワークオーディオトランスポートに使って聴く

 この時にどれだけの音質向上が得られるかが、U1 MINIの実力ということになる。


 OPPO製品についていまさらアレコレ言っても仕方がない気もするのだが、この時の比較試聴に際して、UDP-205のネットワーク⇔USBの入力切り替えの安定感には素直に感心した。音が出なかったりフリーズしたりといった問題はゼロ。もしOPPOが本気でネットワークオーディオプレーヤーを手掛けていたら……と思ってしまう。つくづく惜しい


Helge Lien Trio / Natsukashii

 UDP-205で聴いていても、取り立てて不満なところはない。UDP-205もなかなかたいしたものである。
 U1 MINIにすると、静寂感が一気に深まり、ピアノの高音の伸びも鮮烈になる。結果的に、音楽から感じられる音のコントラストが著しく高まる。


Yes / Fragile / Roundabout

 塊感、面で押してくる感のあるUDP-205に比べると、U1 MINIを噛ませた場合は音数や分解能に大きな差が感じられる。「プレーヤー」としての性能差は歴然としている。


大植英次・ミネソタ管弦楽団 / レスピーギ:ローマの松・アッピア街道の松

 U1 MINIでは最後の最後でもう一段階伸びる。楽章開始時の弱音の描写力も高い。


John Butler / Ocean (2012)

 UDP-205はまったりまろやか。あまり聴いたことのない穏やかな海だが、これはこれでよい。
 U1 MINIでは「まったりしてる場合じゃねえっ!」という具合に鮮やかかつ切れ味鋭い音になる。見慣れた海の景色。


KOKIA / Tokyo Mermaid / 音のアルバム

 UDP-205で聴くKOKIAはずいぶんと重厚な鳴りがする。
 U1 MINIではバックの演奏や歌声の輪郭が適度に研ぎ澄まされ、見通しの良さがだいぶ改善される。透明感も俄然出てくる。



 総じて、U1 MINIは「純粋なネットワークオーディオトランスポート」という自身の価値を証明してみせた。UDP-205のプレーヤー機能と比べて基本性能の高さは明らかで、UDP-205のDACとしての性能を引き出し、素直に「音が良くなった」という感覚が得られる。
 およそ30万円というのはオーディオ用PCと正面から殴り合う価格帯に思えるが、どちらを選ぶにせよ「少なくとも損をすることはない」と言えるだけの機能と性能は間違いなく備えている。

 音質的にも機能的にも、いい感じのミドルクラスのDACはもちろんのこと、特に何とは言わないが「ネットワークオーディオプレーヤーとしてもUSB DACとしても使えるけどネットワーク機能がしょぼい」製品とも組み合わせたいところだ。



【音源管理の精髄】 目次 【ネットワークオーディオTips】

【レビュー】 視た・聴いた・使った・紹介した機器のまとめ 【インプレッション】

【Roon】関連記事まとめ

よくある質問と検索ワードへの回答


新サイト「Game Sounds Fun」が発足しました

【コラム】ゲームの音はここが凄い!