今までドルビーは「さらに後ろにスピーカーを置くといいぞ!」とか「フロントの横にスピーカーを置くといいぞ!」とか「フロントの上にスピーカーを置くといいぞ!」とか色々言って、サラウンドアップミックス技術をアレコレ作ってきた。

 そしてDolby Atmosの登場によって時代の流れはワイド/ハイトスピーカーからトップスピーカーに移り、今までの方式を無かったことにして一本化して7.1.4chへのアップミックスを可能にした新たな技術を生み出した。

 その名もずばりDolby Surround/ドルビーサラウンド。
 まんまと言うかなんと言うか、まぁ、わかりやすくていいんじゃないか。

 せっかく天井にスピーカーを付けるなんて奇行にまで及んだのだから、今後どれだけ出てくるかわからないDolby Atmos/DTS:Xのソフトだけでなく、既存のソフトでもトップスピーカーの恩恵を受けたい。そのために、ドルビーサラウンドがどれだけの効果を発揮するかは非常に重要だ。

 ところで、ドルビーのDolby Atmosの展開における「天井にスピーカーを付けよう!」というメッセージにビビったのか、DTSはDTS:Xの展開において「スピーカーの配置はあんまり気にしない」とか「トップスピーカーはあった方がいいけどなくてもいい」とか、そういう姿勢を取っているようだ。個人的には「あーあ……」という感じ。で、そんなスタンスのDTSが新たに仕込むトップスピーカー込みのアップミックス技術のNeural:Xよりも、ドルビーサラウンドの方が理想を追求しているような気がするのである。


 というわけで、なんとなく効果が期待できそうな、もしくは効果があってほしいソフトを10本選び、ドルビーサラウンドの効果の程を聴いてみた。
 ストレートデコードvsドルビーサラウンドの一発勝負である。
20160924ドルビーサラウンド


『ツイスター』
効果:大

 竜巻が……遥か天空まで……渦を巻く……!
 単純明快にして非常に効果がわかりやすい。


『●REC』
効果:小

 いまいち。
 元から良すぎた感。


『マクロスプラス 劇場版』
効果:大

 ちょっと古めの、最近のソフトに比べてサラウンド感が弱いソフトに対してドルビーサラウンドは結構効果がある。
 直接音・響き成分問わずかなりアグレッシブにトップスピーカーに割り振られるために俄然音の密度と包囲感が増し、移動感も強化される。これはいい。


『U-571』
効果:大

 上からの音っつったらやっぱりコレでしょ。
 爆雷の音がかなりの存在感を持ってトップスピーカーからも放たれ、全方位からの衝撃となって恐怖感が大いに高まる。これはいい。


『猿の惑星:新世紀』
効果:小

 映画館で「アトモスすげえ!」という感激を得た唯一の作品。
 しかし、DTS-HD Master Audio 7.1chにドルビーサラウンドをかけても、猿たちが森の木々を渡るあの恐るべき迫真性を再現することはできなかった……


『英雄 HERO』 レビュー書いてなかった……
効果:中

 秦の軍勢が矢を雨霰と撃つシーン、飛来する矢の数と威力がそれなりに増大する。
 実は「頭上を行き交う音」ということで真っ先に思い付いたソフトだったのだが、残念ながら期待したほどの効果はなかった。


『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
効果:小

 意外にも効果が小さい。効果音・劇伴のトップスピーカーへの拡張はともにいまいち。縦横無尽に飛翔するミレニアム・ファルコンとTIEファイターのドッグファイトも、そこまで大きな差はない。
 これも元が良すぎた感。


『ガールズ&パンツァー 劇場版』
効果:大

 強烈な直接音で埋め尽くされる一方でいささか空間表現に欠けるのがなんとかならないか、と思って試したら、見事になんとかなった。
 効果音・劇伴ともにトップスピーカーへの拡張は非常に強力で、戦車砲や駆動音に壮麗な響きが加わる。戦車がぎゃりぎゃり走り抜ける際の移動感も相当に強化され、繋がりがだいぶ良くなっている。


『グラディエーター』
効果:小

 コロッセオに降り注ぐ観客の大歓声が……!
 と思ったが、元から良すぎたので別にドルビーサラウンドだからどうということはなかった。


『キングダム・オブ・ヘブン』
効果:小

 エルサレムの城壁を挟んで行われる投石器による攻撃の応酬が……!
 と思ったが、元から際立った上下方向の空間表現を有していたので別にドルビーサラウンドだからどうということはなかった。



 横へ広げようとするDTS Neo:Xに対し、ドルビーサラウンドは移動感の強化と上下の感覚の醸成を特徴とする。Neural:Xはどうなのだろう。
 ドルビーサラウンドによるトップスピーカーへの拡張で得られる音は、当然ながらDolby Atmos収録ソフトのような明瞭さを持っているわけではない。それでも、目指している方向性は似ているように思う。ついでに、ろくすっぽトップスピーカーが活躍しないDolby Atmos収録ソフトに比べれば、ドルビーサラウンドが大きな効果を発揮するソフトの方がトップスピーカーの恩恵を感じられることも確かである。

 総じてドルビーサラウンドはそれなりの効果が得られ、音がなまったり、過剰な響きの付加で細部が埋もれたりすることもないようだ。せっかく天井に付けたトップスピーカーを活かすためにも、ドルビーサラウンドは常用して良さそうだ。



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