外観・運用編



・再生環境詳細

canarino Fils + JRiver Media Center / ASIO

SOULNOTE D-1

Nmode X-PM7
Dynaudio Sapphire



・聴いた曲

いろいろ



・音質所感

 私はSOULNOTE製品に対しては「熱い音」という勝手なイメージを抱いていたし、今もそうだ。
 演奏家の「魂」が垣間見えるような、熱い音。
 そして実際に聴いたSOULNOTE D-1の音は、想像していたのとは少々違った、しかし確かな熱さを孕んでいた。

 まず目に入る特徴として、SOULNOTE D-1は、我が家に迎え入れたことのあるファイル再生関連機器としては、SFORZATO DSP-01というおばけを除けば最強クラスの電源を搭載している。
 強力な電源が奏功しているのだろうか、とにかく上から下までエネルギーにムラがなく、実にすらりとスムーズに音が出てくる。ただし馬力感、あるいはリスナーに音が押し寄せてくる的な感覚はなく、音楽の盛り上がりに応じて余裕綽々にエネルギーを送り込むという印象を受ける。
 字面にすると妙なことになるが、重厚な音であってもあまりにも軽々と繰り出してくるため、「Kygo / Cloud Nine / Stay feat. Maty Noyes」あたりを聴くと、最初は「なんだかそっけない」とさえ感じてしまった。しかし、聴いていて「あぁ、機械頑張ってんな」的な感覚がまるでないため、意識は完全に再生されている音楽そのものに向く。結果、音楽本来の「熱」が顕わになる。なるほど!
 それとなく中域を持ち上げて作り出すようなものではない、実に高度な、むしろ知性を感じる類の「熱」と言える。

 一方、低域にはちょっとした特徴がある。
 明瞭な輪郭を伴ってしっかり描くと同時に、他の音域と比べると厚みがあり、実に聴きとりやすくなっている。かなり深い部分の低音であっても、それをきちんと「音楽の一部として意識できるように」という配慮の結果だろうか。
 いずれにせよ、この低音の厚みがあるおかげで、音楽全体に聴いていて身を揺らしたくなるような躍動感が付与されている。
 「toe / songs, ideas we forgot / Leave word」や「Marcus Miller / Afrodeezia / Xtraordinary」あたりを聴くともう最高である。「Yes / Relayer / Sound Chaser」なんか、最高を通り越してもうウヒョーってな具合である。ベースとドラムがギターとキーボードを巻き込んでレースをやらかすような曲との相性は究極的に素晴らしい。「Joe Satriani / Surfing with the Alien」など、疾走するギターとの相性も言わずもがな最高である。「Jim Croce / Photographs & Memories: His Greatest Hits / I Got a Name」など、古き良き名曲のギターも厚みがあって実によい。

 全体的な情報量、音の素早い立ち上がりと余計な尾を引かない消え方、解像感はいずれも優秀。
 特に解像感は全音域で卓越しており、「Hairspray Original Soundtrack / You Can’t Stop the Beat」の折り重なるコーラスも、「Jennifer Warnes / The Hunter / I Can’t Hide」の畳み掛けるようなドラムの連打も、テンションを高く保ったまま実に軽々と解きほぐしてみせる。前述の低音の厚みも、この解像感の高さをいささかも損なっていない。

 空間表現もなかなか達者であり、前に押し寄せてくる感覚はそれほどないかわりに、奥行き感はじゅうぶん、特に横方向への広がりに優れる。Iona / Beyond These Shores / Prayer on the Mountain」の左右に揺蕩う音の煌めきも、しっかりと空間性を伴って描かれている。


 ところで以前、Dynaudioのショウルームon and onにて、fundamentalのラインアンプ「LA10」を聴いたことがある。
 当然ながらプリアンプだけではシステムにならないので、他の機器が必要になる。その時はCDTもDACもパワーアンプもスピーカーもSOULNOTE製品で統一されていた。まぁそりゃそうか。
 そこで聴いた音は、私のオーディオ経験の中で過去最高の、究極的な高S/Nが実現されていた。もちろんLA10の実力も大いにあるのだろうが、そこに繋がるDACやパワーアンプも含め、システム全体で実現された高S/Nである。
 このS/Nの高さがもらす静寂は、「透明感がある」ともまた異質な、もはや「闇」としか表現しようのないものだった。
 一切の雑音から隔絶された闇。闇の中だからこそ、あらゆる楽音が眩い光となって屹立する。ディスプレイで言うところの無限大のコントラスト。どれだけ音の「派手さ」や「でかさ」を追求しても、それだけでは絶対に到達し得ない深遠の境地。

 つまり「熱い音」に加えて、「高S/N」もまたSOULNOTEの美点であるわけで、それはSOULNOTEが新体制になってからも変わらず、D-1にも引き継がれている。

 D-1は実に闇が深い(変な意味ではない)。「Radka Toneff / Fairy Tales / The Moon Is a Harsh Mistress」も、「Helge Lien Trio / Natsukashii / Natsukashii」も、透徹した闇の奥から光が瞬く幽玄な表情を見せる。
 現在の私のシステムは終始(実使用上問題にはならないものの)サーノイズを出すNmode X-PM7の存在により、実際の「無音」を実現することはできないのだが、それでもなお、D-1を繋ぐとにわかに静寂感が深まり、闇が濃くなる。

 私は機器やソフトの音質を厳密に評価する際は、常に深夜、寝静まった田舎の闇の中で、明かりを落とし、瞼も閉じて、不要な感覚を鎮めて最大限に聴覚を研ぎ澄ませた状態で行っている。この瞬間、聴覚からもたらされる視覚的なイメージも最も鮮明になる。そして気が付くと寝ている。
 物理的な闇の中にあってなお闇の深まりを感じられるのだから、D-1の聴かせる静寂はなかなかたいしたものだ。

 ちなみにD-1の音は静寂感/コントラストに優れるものの、色彩豊かかと言われればその印象はない。例えばChord DAVEのようなカラフルさはなく、もっともっとストイックな音色である。正直、曲によっては合う合わないがはっきり出るのかもしれないが(特に元々がアレで味を付けてナンボの曲)、その辺は基礎性能の高さでカバーできそうだ。


 ES9038PROをデュアルで搭載だの、PCM 768kHz/32bitにくわえてDSD 22.6MHzという現時点で最高スペックのフォーマットに対応だの、そういう部分に目が行ってしまうのは仕方がないのかもしれない。しかし実際には、「最新のDACチップを使っているのか。へー」とか「こんだけの対応スペックがあれば当分細かいことは気にしなくていいな」とか、その程度のことでしかないのだ。
 少なくとも私には「このDACには○○○というDACチップが使われています! 凄い!」などと大騒ぎする趣味はない。そんなもん、いつかは当たり前になって陳腐化して「あっそふーん」で済まされる日がやってくるのは目に見えている。
 DACチップだの対応フォーマットのスペックだのはあくまでも技術仕様であって、時代の要請に応えるためのものであって、それだけで本機の本質を表すものではない。


 上から下まですらりと伸びた、余裕綽々の表現力。
 身を揺らしたくなる躍動感を生む厚い低音。
 高S/Nがもたらす卓越した静寂感。
 知性ある熱。

 時代の先端を抉り取る強力な仕様と、確固たるブランドの哲学を感じさせる魅力的な音が合わさった、SOULNOTEの10周年を飾るに相応しいDACである。


「Bulk Pet」によりさらなる進化を遂げた!



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