BDグラディエーター
左が最初のリリース。右が後にリリースされたドイツ盤。


【BDレビュー】第184回『グラディエーター』 国内盤&独盤


 “BDは高画質”という言葉。
 誰しもがそう思うだろう。
 私もそう思いたい。
 しかし、現実は必ずしもそうではない。
 縁もゆかりも興味もない作品がやっつけ仕事の手抜き仕様でBD化されても別に知ったことではないが、自分の愛する作品がそんな目に遭ってしまったら、その悲しみたるや筆舌に尽くしがたい。
 今回紹介する『グラディエーター』は、残念ながらその例だった。

 映像的にも音響的にも素晴らしい作品である『グラディエーター』は、特にBD化が嘱望されていたタイトルだった。BD化が発表された時、喜んだ人もさぞかし多かろう。
 ところが、実際にリリースされたBDを目にした時、私を含め、多くのユーザーが愕然とした。

「え、なにこれは……」

 酷い画だった。
 BDに収録されていた映像は、『グラディエーター』という作品に期待される画質を遥かに下回るどころか、不自然な輪郭強調や白飛びなど、そもそも“映像圧縮として破綻”していたのである。
 このふざけたBD化に対し、世界中で良識あるAVファンの怒りが爆発した。日本はだんまりだったが。その根底には、純粋に愛する作品をより高いクオリティで鑑賞したいという欲求はもちろん、「これを許してしまえば、再びこのようなふざけたBD化が繰り返されてしまう」という危機感もあったはずだ。『グラディエーター』という作品の知名度や影響力を考えれば、このふざけたBDに対する怒りは至極当然だったと言える。
 多くの場合、映画作品は一度BD化されてしまえば、よほどの人気作でもない限り、お色直しされて再BD化されるようなことはない。もしかしたら、『グラディエーター』のBDは未来永劫、この糞画質BDで打ち止めになってしまうという恐怖があった。

 やがてユーザーの願いは実を結び、海外では見事再BD化が果たされた。
 風の噂に聞いたところによれば、旧版を持っているユーザーに対して無償交換までしたとかなんとか。日本ではまったくそんな話は聞かないが。
 気になるのは新旧でどれだけの画質差があるかということだろう。
 百聞は一見に如かず、Blu-ray.comに掲載されている画像を見てもらいたい。





 “BDは高画質”という言葉は当てにならない。
 BDはあくまで器に過ぎない。最終的に画質を左右するのは製作側の“情熱”である。どれだけ優れた素材があろうが、手を抜けばこのザマなのである。

 再BD化されたことで、『グラディエーター』はようやく、本来期待されていたレベルの画質を実現することができた。かつて怒り狂ったユーザーも私を含め、この出来なら満足したはずだ。

 『グラディエーター』はふざけたBD化によって“BDは高画質”という幻想を打ち砕くと同時に、後に再BD化されるという形で、“BDのクオリティを決めるのは製作側の情熱である”ということも示した。『ロード・オブ・ザリング』や『プレデター』など、似たような例は他にもあるが、話題性や“落胆→救済”の振れ幅の大きさから、それらの代表として『グラディエーター』を選出した。
 この選出は“いい意味”と“悪い意味”の両方の意味を持っている。出来のいいソフトをひたすら羅列するばかりではなく、このようなソフトも存在したということを示すことも、BDの歴史を考えるうえでは非常に重要である。

 そして、この場を借りて、すべてのソフト会社に言いたい。
 「最初から本気を出せ」と。
 もちろん、技術の進歩やノウハウの蓄積によって、以前では成し得なかったクオリティを実現できるようになっての再BD化ならば大いに歓迎する。
 しかし、単なる手抜きや、やっつけ仕事によるBD化は、決して許されるものではない。
 それはユーザーを馬鹿にしているだけではなく、何より作品に対する冒涜に他ならないからだ。



BDレビュー総まとめ