神様セカンドライフ 66話「あぐりこ稲荷」
雄勝郡の稲荷オールスターとはまたたまげた展開になった。
かつて元稲田神社が末社として座した三輪神社は拙著『菅江真澄と歩く 二百年後の勝地臨毫 出羽国雄勝郡』で丸々一章を使って記したわけだが、元稲田神社――通称あぐりこ稲荷についてはほんの少し触れただけで、詳しくは立ち入らなかった。絵も描いていなかったし。
というわけで、今回あぐりこ稲荷が「神様セカンドライフ」に登場したことを記念(?)して、あらためて元稲田神社に行ってきたのである。
元稲田神社の縁起/あぐりこ稲荷については以下のサイトを参照。
元稲田神社 – 秋田県神社庁
あぐりこ伝説(秋田県、雄勝郡羽後町) – スーちゃんの妖怪通信
訪れた時はちょうど羽後町の盆踊りの前日ということもあってか、心なしか洒落た装いをしているようだった。
いくつもの鳥居と傍らの石を過ぎて……
元稲田神社にやってきた。
規模はそれほど広くないにせよ、手入れの行き届いている様からは信仰の篤さが見て取れる。
正一位。
境内には他にも大小の社と、杉林。
ちなみに湯沢市関口の正一位おさんこ稲荷大明神には、元稲田稲荷神社と刻まれた石碑が立っている。稲荷同士、何かしらのネットワークがあったのだろうが、詳細不明。
菅江真澄は『雪の出羽路 雄勝郡』の杉宮村の項に、「元稲田稲荷ノ社」として、以下のように記している。
本社(三輪神社)の西二丁斗に稲荷ノ社あり、昔は野ノ宮といひし、近き世元稲田小河寺ともはらここをいへり、正徳五年七月二十二日授正一位たまふ御ン神也。つかはしめの神狐(とうめ)を安具理子といふ女狐也、そは女子のみあまた生て女子に飽といふ詞也、あぐりこと名附ればかならず男子を産りとなむ、此名信濃ノ国をはじめ北国にあり、また陸奥にも出羽にもおあぐり、あぐりこなンどといひていと多し。その狐も女子あまたにてその末の子にてやありつらむかし。
「神様セカンドライフ」において、あぐりこは泉光院やら何やらのボス的な立場のお沢稲荷と対等な、酒飲み友達的な描かれ方をしている。
割烹着の姉ちゃん然とした風貌で描かれたあぐりこではあるが、その実、
阿栗子に仕ふ狐あまたなり、そが名ども雷堂の髭長、傳佛野の祖惡郎、大堀の迦須子、柏原の匍匐松子、袖鳥居野の甚太五郎、高幅野の甚九郎、中嶋の左衛門四郎、其外にもいといと多し。
という具合で、相当に広い地域の狐の首魁だったようだ。佐竹氏が水戸から連れてきたお沢稲荷と対等の立場で酒飲み友達をやってもなんらおかしくない、名のある稲荷なのである。なおあぐりこの弱点はムカデの模様。
「神様セカンドライフ」はそれ自体で楽しい創作作品であることにくわえて、作品を通じて地元の諸相に意識を向けさせるという点でも、このうえなく大きな力を持っている。
たやすいことではない。
【菅江真澄32歳・秋田の旅】『小野のふるさと』天明5年2月2日/平成31年3月12日
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