DTS:X!!!



 3月中に発表するとか言っておきながらなしのつぶてとはいったいどういうこっちゃ、と思ったら公式で4月9日発表ということになっていた。
 まあ、別にそれはいい。

 心配なのは、「DTS:XはDolby Atmosの二の舞を踏むのではないか」ということだ。



 あくまで現時点、かつ「家庭用の」と前置きしたうえで、私はDolby Atmosは完全に失敗だったと思う。
 世界初のDolby Atmos収録BDである『Transformers: Age of Extinction』がリリースされてから半年が経ったが、Dolby Atmos収録のソフトはそれからまったくと言っていいほど増えていない。
 ヘラクレスにジョン・ウィックにタートルズにエクスペンダブルズ……いや、タイトル的にはまったく問題ないのだが、とにかく数が少なすぎる。
 新作映画ですらことごとくスルーされるだけでなく、期待していた「Dolby Atmosで劇場公開された映画のDolby Atmos収録再BD化」もまるで出てこず、精々ゼロ・グラビティ程度。
 ソフトが出ないのにハードだけ売ろうったってそんなものは無理に決まっている。
 ワーナーとパラマウントの新作すべてにDolby Atmosが収録され、怒濤の旧作Dolby Atmos収録再BD化を楽しみにしていた私の期待は見事に裏切られた。
 ドルビーサラウンドによる拡張で上から音がしますよなんて言われたところで、妥協せず構築された従来のサラウンドシステムの時点でそもそも上下方向の情報量は不足しないため、結局「拡張なんぞのために天井にスピーカーを付ける意味はない」という展開になってしまう。また、実際に家庭用のアトモスを聴いてもパッとしなかったという経験がモチベーションに暗い影を落としているのも確かだ。
 挙句の果てに狙い澄ましたかのようなタイミングでDTS:Xが発表されたことにより、「Dolby Atmosに対応した(しかしDTS:Xには対応しない)AVアンプ」は完全に宙ぶらりんになってしまった。
 とうとう私のアトモス熱は完全に冷めた。



 そして、DTS:Xである。
 4月9日に大々的に発表されるらしいが、いったいどうなることやら。
 Auro-3Dは気にしないとして、Dolby AtmosとDTS:Xが出揃えば、以降のAVアンプが機能的に宙ぶらりんになることはあるまい。それはいい。
 兎にも角にも問題はソフトだ。
 2、3年前から劇場公開で使われまくっているDolby Atmosでさえ収録されたソフトがまるで出てこないのに、DTS:X収録のソフトがいきなり出てくるなんてことはあるのだろうか。
 出てくるとして、いったいどの程度のボリュームで出てくるのか。DTSを採用する映画会社から今後発売されるすべてのソフト(音響をオブジェクトベースで作っている作品に限られるが)にDTS:Xが収録され、腐るほどある“アトモスで公開したのにBDにアトモスが入っていない”作品群を短期間でことごとくDTS:X収録で再発するくらいのことをしなければ、「潤沢なソフト」なんて状況には程遠い。
 ただでさえ「天井にスピーカーを付ける」という高すぎるハードルを設定しているうえに、肝心のソフトを出し惜しみしたのではその瞬間に普及は絶望的になる。
 その点で、Dolby Atmosはソフト収録に到るまでのどこがボトルネックになったのかは定かではないが、まるでソフトが出ず、現状では完全に失敗したと言わざるを得ない。
 DTS:Xには同じ轍を踏んでほしくない。

 なんにせよ、ささやかな期待と大いなる不安を胸に今は待つしかあるまい。


 もしかしたら、「DTS:XはUHD BDにのみ収録します」なんて展開になったり……いや、まさか……



【オブジェクトベースシアターへの道】 まとめ