音展で東京遠征したついでに、某所の試聴イベントに参加して家庭用Dolby Atmosを聴いてきた。
 システムはB&WのCMシリーズ2の7chにイクリプスのサブウーファー、廉価なブックシェルフスピーカー4本による7.1.4構成。使用したAVアンプはSR7009。はっきり言って、常識的な範囲で考えれば非常にレベルの高いシステムである。
 こう正確に書くと場所と時間を特定されそうでアレだが、書かないことには始まらない。

 まずDolby Atmosのデモディスクを見る。
 いかにもデモディスクらしい派手な音作り。
 確かによくできた音響だが、これは果たしてDolby Atmosの効果によるものなのか? という疑問も。
 別にDolby Atmosではない従来の音声であっても、CMシリーズの実力ならこのレベルの精密さは余裕で再現できそうなもんだが、というのが率直な印象だった。

 続いて、非アトモス音声を収録した作品を三本、ドルビーサラウンドによる拡張で聴く。
 再生したのは「シャーロック・ホームズ」(ロバート・ダウニー・Jrのアレ)と「ダークナイト ライジング」と「007 スカイフォール」。シャーロック・ホームズはさておき、後の2本はエクストリーム高音質ソフトである。このチョイスは素晴らしい。そういえばスカイフォールのレビュー書いてないな……

 「シャーロック・ホームズ」からは、精肉場で大騒ぎする場面。声の反響と上方向からの機械音が聴きどころらしい。
 「ダークナイト ライジング」からは、ベインとの一回目の対決。やはり上方向の情報が聴きどころらしい。
 「007 スカイフォール」からは、終盤のヘリコプター襲撃。ヘリが上空を旋回する辺りが聴きどころらしい。


 んー………………


 正直言って、「こんなもん?」という感じ。
 決して音が悪いわけではない。むしろ素晴らしい。なんせ、そもそも音の良い作品をCMシリーズのフルセットで鳴らしているのだ、音が悪いわけがない。
 だが、ドルビーサラウンドにしたことで何がどう変わったのかが分からない。そもそもドルビーサラウンドのオンオフを切り替えて聴かせてくれたわけじゃないし……


 気を取り直して続くは「トランスフォーマー ロストエイジ」。
 世界初、正真正銘のDolby Atmos収録ソフトである。
 待ってました。というか最初にコレを流すとばかり思っていたよ。
 再生したのは終盤、色々吸い込んでボトボト落としていく場面。
 吸い上げと落下でDolby Atmosの効果てきめん、とのことだったが……

 ……


 …


 え、こんなもん?


 Dolby Atmosの真価を見極めようと思って、ロストエイジはうちのシステムで散々聴き込んでからこの試聴会に臨んだ。
 申し訳ないが、出てきた音はアトモス非対応のうちのシステムに大きく劣っていた。
 スピーカーやアンプの価格差があるから仕方がない? そんなことは分かっている。
 私が問題にしたいのは上下方向の音の情報量だ。Dolby Atmosの導入により、シアターは上下方向の広がりを得て、文字通り次元の違う音響効果が得られるのだと期待していた。ところが、天井にリアルスピーカーを4本吊り下げたDolby Atmosのシステムは、上下方向の情報量においてさえ、うちのシステムに対する明確なアドバンテージを聴かせてはくれなかった。
 オブジェクトベースによるスムーズな音の移動もDolby Atmosの真価と言うが、この程度の精度なら別にアトモス非対応のシステムでも普通に出せる。
 結局、Dolby Atmosは魔法でも何でもなかった。スピーカーやアンプのグレード、そしてセッティングというホームシアターの基礎基本を覆すような便利な代物ではなかった。


 ものすごく期待していただけに……

 ショックだ。


 繰り返すが、音が悪かったわけではない。
 上位クラスのAVアンプに加えてCMシリーズを使って音が悪いわけがない。


 しかし、Dolby Atmosの効果は……


 うーむ……



【Dolby Atmos導入記】

・スピーカーの配置
・スピーカーの配置②――天井にスピーカーを設置できない場合
・スピーカーの選択
・AVアンプの選択
・世界初のアトモス収録ソフト「トランスフォーマー ロストエイジ」を“普通に”聴く
・嫌な予感