『ハイレゾ』は本当に音が良いのか

 上記記事において、私は

 ハイレゾ音源は容量だけは間違いなくでかいが、必ずしも高音質ではない。

 と喝破する一方で、

 「音の良いハイレゾ音源」は間違いなく存在する。

 と述べた。

 述べたからには、「それじゃあ音の良いハイレゾ音源って何よ?」ということになるだろう。それを示さないのでは無責任だ。


 その前に、一歩立ち止まって考えてみる。
 「ハイレゾならではの高音質」とはいったいどのようなものなのか。

 量子化bit数が16bitから24bitになってダイナミックレンジが96dBから144dBに向上した? ん? 32bit? 凄い鼓膜だな。
 サンプリング周波数が44.1kHzから96kHzとか192kHzとか384kHzになって標本化の精度が大幅に上がった? ん? ついでに可聴帯域を遥かに越える帯域も収録できるようになった? コウモリに求愛でもするの?

 業界やメーカーが必死に「なぜハイレゾは音がいいのか!!!!!!」を伝えようとするとき、必ずと言っていいほど上記のような、理論的根拠が示される。
 しかし正直なところ、多くの人にとって、そんな理屈は



 死ぬほどどうでもいい



 のではあるまいか。
 ハイレゾ音源を買うのは「音がいいから」、あるいは「音がいい可能性があるから」であって、そこには当然理論的根拠が背後にあるにせよ、決して「スペックが高いから」ではないと思うのだがどうだろう。高音質の可能性を求めてハイレゾ音源を買ったところで、実際の音がまるで大したことなかったら、それはもはや容量がでかいだけの無用の長物でしかない。そして破局を迎える。
 デジタル領域における理論はどこまで行っても所詮デジタル。
 しかし、現に我々が聴く音はどこまで行っても音波というアナログ。
 bit数やサンプリング周波数云々はあくまで理論的帰結を述べているだけであり、それが音質に対してどのように寄与するのか、最終的に耳に届く音にどのような恩恵を与えるのかは述べられていない。
 どれだけ理論的な高音質を謳ったところで、最終的に出てくる音がすべて。


 しかし、「音の良いハイレゾ音源」は確かに存在するのである。
 それでは、繰り返しになるが「ハイレゾならではの高音質」とはいったい何なのか。

 それなりの数のハイレゾ音源を聴いてみると、ある種の傾向が見えてくる。
 私が考えるに、ハイレゾのもたらす音質的恩恵は大きく以下の二つに分けられる。


①ハイレゾ――High Resolution――高解像度という言葉が示すとおりの“密度”・“濃度”とでも表現すべき豊富な情報量、音そのものに備わる繊細なディティール

解放感、空気感、ストレスのない空間の広がり


 ハイレゾというと得てして①のイメージが強いが、私の経験上、多くのハイレゾ音源においてCD(44.1kHz/16bit)との差を生み出しているのは②に思える。むしろ、①を実感できた音源はあまり多くない。
 これらの音質的向上を生む理由が量子化bit数にあるのか、サンプリング周波数にあるのか、それはわからない。強いて言えば、②については量子化bit数が決め手になっているように思える。
 なんにせよ、現に違いはある。
 大事なのは「理論的にスペックが高い」ことではなく、ひとえに「音が良い」ということだ。

 ちなみに、うちのSapphireは残念ながら40kHz以上の超音波を再生できないハイレゾ対応スピーカーではないので、音源に収録されている周波数帯域の拡大がどのような効果をもたらしているかは分からない。



 というわけで、延々と文章ばかり綴っても面白くないので、この辺りで私が胸を張っておすすめできる「本当に音の良いハイレゾ音源」の紹介に移ろう。ここで紹介するもの以外にも高音質なハイレゾ音源は数多く存在するが、多くの人にとってわかりやすい(と思われる)ものをピックアップしている。
 「これが高音質? 耳がおかしいんじゃね?」となれば、その時はその時。
 なお、私は別にハイレゾを聴くためにオーディオをやっているわけではないし、クラシックとかジャズとかよくわからないし、職業としてハイレゾ音源を聴きまくっているわけでもないので、今まで聴いてきたハイレゾ音源の絶対数はそう多くない。そのあたりは勘弁していただきたい。


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アルバムfragile 20140226
アルバムclose to the edge 20140226
Yes / Fragile 96kHz/24bit FLAC
Yes / Close To The Edge 192kHz/24bit FLAC

 ロックやポップスはハイレゾにしても意味がない?
 とんでもない!
 四の五の言わずにまずはコレから。
 まずはRoundaboutから。


アルバムliving
アルバムhelge lien trio natsukashii
アルバムbadgers and other beings
アルバムfor long tomorrow
Jan Gunnar Hoff / Living 352.8kHz/24bit FLAC
Helge Lien Trio / Natsukashii 192kHz/24bit FLAC
Helge Lien Trio / Badgers And Other Beings 192kHz/24bit FLAC
toe / For Long Tomorrow 48kHz/24bit WAV

 音そのものの魅力という意味では極致にある音源。
 toe / For Long Tomorrowの12曲目、「Our Next Movement」なんか凄いぞ。


アルバムSARAH
アルバムスカイフォール
アルバムfrasco
サラ・オレイン / SARAH 96kHz/24bit FLAC
Adele / Skyfall – Single 96kHz/24bit FLAC
eufonius / frasco 96kHz/24bit WAV

 ”声”の魅力三傑。
 特にサラ・オレイン / SARAHは圧倒的。問答無用で購入をすすめたい。


アルバムparadise valley
アルバムHeaven & Earth
John Mayer / Paradice Valley 44.1kHz/24bit FLAC
Yes / Heaven & Earth 44.1kHz/24bit FLAC

 スペックだけを見ればCDと比べて16bitから24bitの違いでしかないが、出てくる音はまるで別物。
 まさに②の最たる例で、解放感、空気感、ストレスのない音の広がりとはこういうものか! というのが分かってもらえると思う。


アルバムeva1
アルバムeva2
アルバムeva3
鷺巣詩郎 / NEON GENESIS EVANGELION 192kHz/24bit FLAC
鷺巣詩郎 / NEON GENESIS EVANGELION II 192kHz/24bit FLAC
鷺巣詩郎 / NEON GENESIS EVANGELION III 192kHz/24bit FLAC

 ”ハイレゾという器を得たことによる新生”を体現する素晴らしい音源。
 ありったけのテンションで音圧が詰め込まれていながら、まるで窮屈さや限界を覚えない。”ハイレゾならではのダイナミックレンジの広さ”を、理屈ではなく体で感じられる。



 ハイレゾであることそれ自体に意味はない。
 大切なのは高音質であるということだ。


 とりあえずハイレゾ音源を買い漁る前にスピーカーを買おう。ヘッドホンを買おう。アンプを買おう。プレーヤーを買おう。
 とはいっても、スピーカーやヘッドホンを買うのは振動板が欲しいからではないし、アンプを買うのは回路が欲しいからではないし、プレーヤーを買うのはデジタル基盤が欲しいからではない。機器に込められた技術的成果に大いに心惹かれつつ、究極的には自分にとって音が良いから買うのだ。
 その後で、もういちどハイレゾ音源……別にハイレゾである必要もない。好きな音楽を聴こう。

 きっと最高だ。



「ハイレゾだから高音質」という幻想

オーディオ業界が本気でハイレゾを普及させるために必要なこと