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【AV史に残るBD勝手に10選】第10位『キングダム・オブ・ヘブン』 ― 最初期に示されたBDの理想像

BDキングダムオブヘブン

【BDレビュー】第2回『キングダム・オブ・ヘブン』


 敬愛するリドリー・スコット監督による、十字軍の時代を描いた歴史スペクタクル映画。
 最も早い時期に発売されたソフトであり、BDというメディアの凄まじさを体現したソフトでもある。

 BD最初期のソフトにおいて、音質的には例えば『ステルス』、画質的には例えば『アンダーワールド2 エボリューション』といった好例もあったが、音が良くても画がイマイチだったり、高画質とはいえひたすら暗いシーンばかりが続くなど、一瞬の体験をもって「BDってすげぇ!」という感慨を与えてくれるソフトはそう多くはなかった。
 そんななか、『キングダム・オブ・ヘブン』は画質的にも音質的にも、当時において極めて高い水準を実現していた。そして今でも、その高品質はじゅうぶん一線級として通用するレベルにある。

 映像は過渡期ならではのMPEG-2収録なのだが、じゅうぶんなビットレートが割かれた映像は非常に安定しており、清々しい解像感と麗しいディティールに満ちている。実際、2007年後半から徐々に増え始めたAVC収録のソフトは、その多くが画質において『キングダム・オブ・ヘブン』に遠く及ばなかった。その意味で、このソフトは“圧縮コーデックは必ずしも最終的な画質を決定しない”ということも教えてくれた。
 冒頭、フランスの“碧い森”の透徹した空気感は今でも鳥肌が立つほどに美しい。闇夜に燈る蝋燭を映すシビラの瞳、静謐な廊下に置かれた騎馬人形の佇まい、灼光を照り返し煌めく鮮血、陽炎の中から燦然と姿を現す巨いなる十字架……
 この作品は美しい。その美しさを余すところなく視聴者に届けるべく、BDは最高の仕事をした。DVDでもこの映画を見ていたのだが、当時の私にとって、BDとの差はもはや“偽物と本物の差”と映った。ノイズにまみれた模様に過ぎなかったものが、確たるディティールを身に纏い、戦列を組む大軍勢へと変貌するのである。既に見えていたものが変貌し、生まれ変わるという体験。
 かつてパイオニアが誇りをかけて世に問うた「KURO」というプラズマテレビがあった。そのデモを実際に目にした時、使われていた映像ソースが、まさにこの『キングダム・オブ・ヘブン』だったことを覚えている。

 音についても、『キングダム・オブ・ヘブン』は素晴らしい実力を遺憾なく発揮した。
 発売当初のPS3は、いわゆる“ロスレス音声”をビットストリーム出力することも、リニアPCMに変換して出力することもできなかった。よって、DTS-HD Master Audioで収録されたこの作品の音は強制的にロッシーのDTSに変換されて出力されることになった。しかし、それでもなお、『キングダム・オブ・ヘブン』の音の良さは群を抜いていた。
 広大な空間に哀切な調べを乗せて始まった作品は、フランスの碧い森に心臓を打ち据える闘争の咆哮を上げ、クライマックスに向けてさらに苛烈に、そして巨大に成長していく。
 中盤、味方援軍の到着まで時間稼ぎをすべく、主人公が指揮する少数の騎馬隊が、圧倒的多数の敵へ突撃を敢行するという本作屈指の見せ場がある。徐々に加速していく人馬、それに伴い熱を帯びていく劇伴。地を叩く“蹄”の音でさえ、陣形の変化とカメラワークに伴い複雑な軌跡を描く神がかったサウンド・デザイン。ふっと訪れた静寂、一瞬後の激突が吹き上げる悲鳴と怒号。ぶつかり合い、裂かれ穿たれて骨肉が軋み呻く。全方位に撒き散らされる叫喚の中、主人公たち寡兵は徐々に数でもって押し潰され、やがて戦鎚の一撃が主人公を捉える。このシーンはその迫真さにおいて、『ブレイブハート』におけるスターリングの戦いや、『ロード・オブ・ザ・リング / 王の帰還』におけるローハン勢の総突撃と並ぶ、極め付きに素晴らしい騎馬突撃であると思う。
 その後、音響の主体は人馬から大軍対大軍へと移り、エルサレムを舞台とした空前の一戦が幕を開ける。
 闇夜の向こうから姿を見せたアラブの騎士が、高らかに神を讃える。

「いつ始まるのですか」
「すぐだ」

 深い紺色の地平線に、燃える光点が無数に燈り始める。
 やがてそれらは地を離れ、天に軌跡を描いて、エルサレムに降り注ぐ。
 同じ監督による『ブラックホーク・ダウン』に勝るとも劣らない、投石器による凄まじい爆撃である。
 業火と爆音が街を焼き焦がし、やがて夜が明ける。エルサレム側も塀の内側から投石器による攻撃を開始し、そこに無数の矢の応酬、破城鎚に燃える油をも巻き込んで、屍の山が堆く積まれていく。
 どれだけ言葉を重ねても言い尽くせそうにないが、そんな音の感動は、やがてPS3のアップデートによりDTS-HD Master Audioのデコードが可能になった時点で、さらなる深化を果たした。『ステルス』のリニアPCM音声が聴かせてくれたような、“絶対にロッシーでは実現し得ない力強さ”をも得て、『キングダム・オブ・ヘブン』はAV的にますます魅力的になったのである。


 記念すべき最初期の超高品質BD。
 画も、音も、DVDとは隔絶した世界を提示し、BDとはかくあるべしという理想像を最初期に示した、素晴らしいソフトである。



BDレビュー総まとめ

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