映画のサラウンド再生において、センタースピーカーは必要か不要かという議論がある。
非常に難しい問題である。
どちらにもメリットがあり、どちらにもデメリットがある。
ちなみに私は、「必要」派だ。
俳優の声が画面に強固に定位するというのは勿論ある。しかし、センタースピーカーは必ずしもダイアローグだけを再生するスピーカーではない。
よく聴けばわかることだが、BGMと効果音の殆どは、実はセンタースピーカーからも出力されている。すなわち、優れたセンタースピーカーを設置することは、サラウンド再生において音の包囲感と情報量を大いに向上させる。これを使わない手はない、というのが私の論だ。
Focus200Cは三代目のセンタースピーカーになる。
初代はパイオニアの一本5000円くらいの型番も忘れたスピーカー、二代目はAudioProのImage22。
このAudioproというのは大したメーカーで、製品自体は安価だが、日本製ではとても味わえないような鮮やかで抜けの良い音を出す。北欧(スウェーデンだっけ?)のスピーカーのくせに、まるで南国を思わせる色鮮やかな音を出すメーカーだった。AudioProは私に海外製スピーカーの魅力を教えてくれたし、Image22はセンタースピーカーの存在意義を理解させてくれた。実に思い出深いスピーカーである。
ただ、フロントスピーカーをDynaudioのAudience122に替えてから、センタースピーカーの性能に不満が芽生えてきた。
分解能やらレンジやらといった性能面においても、Dynaudioの冷涼さにあわせる音色の面においても。
しかし、当時既にAudienceシリーズはディスコン。まさにAudience122のために作られたようなAudience122Cを手に入れることはもはや叶わない。
ならば、と選んだのが、シリーズとしてひとつ上位に位置するFocus200Cである。
ヤマハのGTラックの上に鎮座するFocus200C
埃を払わないと……
こうしてやってきたFocus200Cにより、映画におけるダイアローグの再生は一変した。例えば『レッド・ドラゴン』における恐るべき情念の深みは南国情緒漂うImage22では再生できなかった類の、冷気と翳りを湛えるDynaudioならではの再現性と言える。
ちなみにFocus200Cの最初の出番はヱヴァ序のBDだった。たまたま同じ日にやってきたもんで、なかなか鮮烈な初舞台となった。
Focus200Cで音楽を聴くわけではないので、厳密な比較は難しいのだが、音質的なポテンシャルは間違いなくAudience122を凌駕していた。それが顕著にわかるのが、『プライベート・ライアン』の冒頭の上陸戦。火を吹く機関銃が画面の右から左に流れていくシーンがある。音もまたフロントライト→センター→フロントレフトのようにリニアに移動するという地味な魅せ場だ。そのシーンにおいて、明らかに音の存在感も威力も何もかも、センターに音がやってきた瞬間が一番良いのである。映画を見る際、フロント2本をAVバイパスをするのを忘れていても、普通にセンターだけで違和感なく一本見てしまうなんてことも……
唯一問題があるとすれば、Dynaudioの他の例に漏れず、そもそもAVアンプで鳴るようなスピーカーではないだろう、ということだ。
現在使っているSC-LX85ですら、Focus200Cを鳴らせているとはまったく思わない。一線を越えたDynaudioが見せる「極彩色の輝き」を、まだダイアローグの再生において目にしていないからだ。Audience122ですら「鳴った!!!」と確信するまでに巨大な労力を要している。さらにその上に位置するFocus200Cの潜在能力は、失礼ながらAVアンプごときで掘り起こせるものではないはずだ。
サラウンド再生のシステムに組み込まれている以上、Focus200Cを輝かせるにはステレオとはまた違った方法論が必要になるとは思うが、今後の大化けが非常に楽しみだ。
【システムまとめ】
【システム】 Dynaudio Focus200C
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