なぜ、オーディオなのか?
 ここいらで、私のオーディオ遍歴を備忘録的に書いてみようと思う。

 私のオーディオとの出会いは、初めての一人暮らしの際、ラジカセでクロノクロスのサントラを聴いていたら壁を叩かれた時にまで遡る。今思えばあの壁ドンは「運命が扉を叩く」だったのかもしれない。
 とりたてて音楽に造詣が深いわけでも強烈な思い入れがあるわけでもなかったが、それでも好きな曲さえ満足に聴けないのではさすがに困る。私は好きな曲を気兼ねなく聴けるように、何かしらヘッドホンでも買おうと思い、ブラウザの検索窓に「ヘッドホン」と打ち込んだ。

 すると出るわ出るわ……まだHD800もK701もEdition10もなく、STAXを除けばHD650一強だったような時代の、めくるめくヘッドホンワールドに、私は、「おもしろい!」と思ってしまった。生来の凝り性のスイッチが完全に入ってしまったのだ。おそらくこの瞬間に、私が今もオーディオ趣味を続けるうえで非常に大事にしているある想いが生まれた。すなわち、「せっかく聴くなら、もっといい音で聴きたいよね」というものだ。
 悩みに悩んだ挙句、私が初の(まともな)ヘッドホンに選んだのは、SENNHEISERのHD595だった。
 あの日、ドイツ製の慣れないデザインのヘッドホンをかぶり、「時の傷痕」を初めて聴いた時の感覚は、忘れ得ぬ記憶となって私に刻まれた。まさしく時の傷痕だ。

 世界が違う。

 私はオーディオ沼に足を踏み入れた。
 
 
 続く。