Phasemation CM-2000をお借りして自宅で聴く機会があった。

 「コントロールマイスター」の名を冠した、電源を用いないパッシブ・アッテネーターである。



・外観/運用

 左に入力切り替え、右に出力切り替え、中央に音量ボリュームを備えた面構え。ボリュームは無段階ではなくクリック感がある。とはいえ段階はかなり細かく、微妙なボリューム調整で困ることはないと思われる。


 背面。アンバランス入力×3、バランス入力×3、さらに出力も2系統と、入出力は非常に充実している。


 毎度おなじみひっくり返して底面。ウォールナットのベースからタオックの鋳鉄製インシュレーターが覗いている。ここで注目すべきは、ウォールナットにちょうど手が入る具合の切り欠きがされていること。こういう気配りが嬉しいのである。


 ベースとの対比で際立つフロントパネルのこの厚み!!!


 CM-2000は電源を用いないパッシブ・アッテネーターであるとはいえ、複数の入出力を備えており、「リモコンがない」というだけでユーザーがやることは普通のプリアンプと変わらない。それにしても電源ケーブルを気にしなくていいってのは最高だな!



・再生環境詳細

canarino Fils × JRiver Media Center
JCAT NETカードFEMTO

SFORZATO DSP-Dorado(NOSモード・Diretta/LAN DACモード

Phasemation CM-2000

SOULNOTE A-2(パワーアンプモード)
Dynaudio Sapphire

※アナログ接続はすべてバランス



・音質所感

 例によって私のゴールデン・リファレンスとなっているYes / Fragile(最近はSteven Wilson Remixがメイン)から「Roundabout」を聴く。

 音が出た瞬間、「何だこの生々しさ!?」と驚愕した。

 あらゆる音が明快無比に分離し、極め付きの音場の見通しの良さと透明感がある。
 空間表現の豊かさも並外れており、特に前後感/奥行きの深々とした表現には感嘆を禁じ得ない。広大な空間の隅々にまで情報量が漲り、緻密なディテールを備えたまま音楽のスケールが圧倒的に広がる。なんだこれは。

 歌を聴く。

 瑞々しい
 エネルギー感が云々、声の伸びが云々ではなく、ただただ瑞々しい。ちなみにこの「瑞々しい」という言葉、私が音質を評価するうえで用いる最上級の表現である。
 まったく強調感がないにもかかわらず、圧倒的存在感にして圧倒的浸透力。あるがままに歌い、あるがままに響き、あるがままに耳に届く。慄然たるボーカルの魅力。

 楽器の少ないごくシンプルな曲から大編成の曲にいたるまで、人為的なシャープネスによるものではない、音楽が本来持っている情報量を歪めず滲ませずあるがままに表出した果てに生じる、真の解像感がある。すなわち生々しいのである。
 もちろん、「瑞々しい」「生々しい」といった印象に水を差す無粋なノイズの存在は皆無であり、音楽はあくまでも透徹した空間の中で躍動する。

 強いて言えば、出来うる限り人為を介在させない方向の音なので、強烈なオーディオ的快楽とは性格を異にする。甘美な高音とか、重厚な低音とか、そういった感覚は希薄。
 それでも、出音には「究極の鮮度さえあれば、いかなる強調も加工も必要ない」という絶大なる説得力があり、音楽を聴くうえで物足りなさを感じることはまったくない。


 私が今まで聴いてきたプリアンプ(とりあえず同じ扱いで問題あるまい)の中で、Fundamental LA10と並んで、CM2000は間違いなくぶっちぎりでトップの製品であることは間違いない。
 しかし、LA10とCM2000では私が感じた音の方向性が違う。

 LA10は絶無の「闇」を聴かせ、私の求める方向性の究極として常に記憶の中に君臨し、本当に心の底から「あの闇が欲しい」と思うプリアンプである。
 一方のCM2000は、私がオーディオに求めるはずの「闇」をいささかも意識させることなく、ただひたすらに「このままずっと音楽を聴いていたい」と心の底から思わせる力があった。闇を意識させる暇さえ与えないほどに鮮やかな光が溢れ出すイメージがあった。日々の音楽鑑賞をCM-2000とともに送れるのなら、どんなにか幸せなことだろう。

 嗚呼、LA10にせよ、CM2000にせよ、私がピュアとホームシアターを同居させてさえいなければ! でもホームシアター最高! 絶対にやめん!!



 音量を調整する。
 たったそれだけのために、ひたすらに磨き抜いた技術と精緻な機構を投入する。
 たったそれだけのことで、かくも鮮やかに音楽はその姿を変える。
 私が耳にしているのは長い長い時間をかけて積み上げられてきた情熱の総和なのだ。

 Phasemation CM-2000に、私はオーディオの面白さ、奥深さ、そして偉大さを見た。



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