画質:9 AVC

ラピュタ以降、耳をすませばで、ジブリにおけるフィルム作品のBD化は完成されたように思う。
目を見張る情報量、突き抜ける解像感……といったものは、ない。ただし、色あせない。不満がまったくない。
100インチの画面で見ても、画質面で気になる部分が何も出てこない。かつて作られたフィルムをスキャンしてデジタル化し、そこからBDに落とし込む。過去230回もレビューを書いてきて心の底から思ったことだが、その工程で最も重要なのは愛情だ。それも口先だけの愛情ではない。愛ゆえに最上の最善を尽くす、そういった姿勢が必要だ。そして口先だけの愛情が幅を利かす残念な日本のBD市場において、ジブリは極めて愛に満ちたソフトを出してくれる。東宝盤とクライテリオン盤の『七人の侍』を見比べてみるといい。多少高くてもなんら問題はない。
「なんかぼけてる」「なんか汚い」「なんかノイジー」「なんか……」
画質に対し、この手の感情が湧いて邪魔されないだけで、どれだけ鑑賞の質が高まるというのか。計り知れない。
海が青い。空が碧い。描かれたすべてが見える。素晴らしい。
雲だと思っていた、空に浮かぶ点だと思っていたものが、実は散っていった飛行艇だと気付くシーン。そこに、この作品がBD化した真価がある。
ただし一か所。じいさんが請求書とにらめっこしているシーン。ほんの一瞬だけど、画面にガタがきた。そこで一点減点。

見どころ:ホテル・アドリアーノとマダム・ジーナ


音質:14 リニアPCMステレオ

感激した。
ステレオ音響でもって心震わす瞬間を生み出すことは、現実的にサラウンドよりもずっと難しい。映像の補完に加えて純粋な演出として極めて有効な、「真後ろからの音」を使えないからだ。
ところがどっこい、紅の豚は、下手なサラウンドの映画よりも、はるかに音響的醍醐味に満ちている。高品位なダイアローグに支えられ、劇伴も効果音も2本のスピーカー間を自由闊達に動き回る。空戦時の音はステレオが目指す究極、「2本のスピーカーだけで空間情報のすべてを再現する」という領域に達しつつあると思えた。かつてステレオ音響の映画で音質10点をつけた『グラン・ブルー』よりも、さらに一歩先を行く仕上がりだ。
この辺の妙味はシアターだけでなく、2chステレオにも投資してきたからこそ得られたもの。そしてだからこそ、「ステレオ収録の映画は素直にステレオで見るべし」と言える。
瞬間的な爆発力はないにせよ、音圧の不足は一切感じなかった。というよりも、劇伴にせよ効果音にせよ、音の盛り上がりは今まで見たジブリ作品の中でまちがいなく最高である。近作であり、サラウンドをきちんと活用して空間を構築した『借りぐらしのアリエッティ』をも凌駕している。いつもいつも音響的には盛り上がりに欠け、煮え切らない感のあるジブリ作品で血沸き肉踊る昂揚が得られた。エンドロールの『時には昔の話を』も、純然たる高音質で素晴らしい余韻を提供してくれた。
実に楽しい時間だった。

聴きどころ:劇中歌、劇伴のすべて


もののけ姫のBD化が死ぬほど楽しみだ。



BDレビュー総まとめ