Phile-webコミュニティで書き続けてきた『御気楽BD視聴記』。
 HNも変えた再出発につき、より普遍的な『BDレビュー』とした。
 「なぜBDを買うのか?」という疑問に答えるためには、「画質と音質にこだわることがいかに鑑賞の面白さを増幅するか」をしっかり伝えなければならない。となると、やはり数値による評価は必要だろう。好きとか嫌いとか、それ以前の問題として画質や音質の善し悪しは厳然とある。
 こだわった環境で見ても、「見れればそれでいい」という環境で見ても、見るために要する時間は同じ。なればこそ、同じ時間の中から、より多くのものを得たいと思うもの。
 いろんな意味で、一歩踏み込んだ内容にしたい。


あらためて評価について補足。

◎基本
画質音質ともに基本的には10点満点。
ちなみに10点満点の基準は2007年に発売された『カジノ・ロワイアル』のBD。未だに相当ハードルが高いソフトだと思う。
11点~15点は感性というか感覚的な部分での加点。
視聴記を書き始めた当初は自分の中での高画質高音質のハードルが低く、次々に想像を絶するクオリティのソフトが出てきて評価しきれなくなったための措置。

◎画質
情報量。ハイビジョンの解像度を生かして、画面にどれだけの情報を入れ込めるか。色彩の妙味。ディティール。
解像感。クッキリシャッキリ、DVDとは次元の異なる、ハイビジョンらしい映像の“キレ”。これが弱いと“甘い”あるいは“眠い”画になる。
安定感。全編通してのトータルのクォリティ。ジャギーが出る、ノイズが出る、マッハバンドが出る、黒が浮く、そういった部分は減点対象。
圧縮に伴う弊害が見られず、全編通してクォリティを維持し、情報量も解像感も太鼓判を押せるレベルで、10点。
色々小難しいことを抜きにして、純粋に「綺麗だなァ」と思えば、11点以上が付く。
15点の基準は実写なら『アイ・ロボット』、アニメなら『WALL.E』。
そして4Kの足音が聞こえ始めた昨今、15点越えのソフトも現れてしまった。
『アバター』と『リアルスティール』の2本が臨界点突破。

◎音質
音楽(劇伴)の品位あるいは音質。
効果音それ自体の生々しさ。迫力。瞬発力。ダイナミズム。
映像において超重要な“声”、その裏側に潜む口腔と唇の存在感。
そしてなにより、“音響”あるいは“サウンドデザイン”。ここがしょぼいと色々と台無し。
出来の悪いサラウンドは、丹精込めたステレオに“圧倒的に”劣る。
マルチチャンネルを活用し、音の品位もよく、映像音響の楽しみを十分に楽しませてくれるレベルで、10点。
色々小難しいことを抜きにして、映像と合わせて「忘我」の瞬間を味わえれば、11点以上が付く。
15点の基準は実写なら『ダークナイト』、アニメなら『AKIRA』。
これ以上はないだろうと思ったら、こちらも15点を越えるソフトが現れてしまった。
『プライベート・ライアン』と『ランボー 最後の戦場』(北米版エクステンデッド・カット)の2本が臨界点突破。


――――というわけで、ここから本編――――


新海作品は『ほしのこえ』『雲の向こう、約束の場所』『秒速5センチメートル』は全部見たし、後者二つはBDも見た。
『ほしを追うこども』(だっけ?)はなんか酷評ばかりが目についてしまって結局未見。
BDはふたつとも解像感に優れ、新海作品らしい見目麗しい映像を味わうには十分だったが、音があまりにも弱すぎた。かつ、画質もマッハバンドを排除しきれていなかったり、完璧とは言えない感があった。
今回は、どうかな?

・画質:15
デジタル時代の、2D主体のハイビジョンアニメとしては完成形かな。
バンディングは見当たらず。ごく稀にジャギーが枝葉の先端に垣間見えるが、100インチで見てるわけだし、これはもう1920×1080という解像度の限界にも思える。全編通じて抜群の安定感を見せる。きちんとハイビジョン時代にハイビジョンで作品を制作するという点では以前から貫徹しているので、解像感も申し分なし。雨上がりの透明感が画面から染み出すようだ。
メインとなる灰色と緑の表出は素晴らしく、新海作品特有のグラデーションも破たんせずに描き分ける。特に緑がいい。素晴らしくいい。濃く、深く、緑だけでなく、碧も翠も含めて色彩が折り重なる様は心が躍る。目の保養。空の青よりも木々の緑に重点が置かれているのはタイトル名の通りか。
やたらめったら登場する虹やら、雲間から差し込む陽やら、ひたすらに美しい。マッハバンドがないだけで、映像への没入感はだいぶ違う。
個人的に感心したのは雪の表現。最後の最後に、雪を上から見下ろすカットがある。その際、雪が小さな極彩色を煌めかせていた。陽を浴びた雪が実際にそんな姿を見せることを知っている人間として、うれしくなった。

見どころ:濡れて光る緑、窓を伝う滴


・音質:9
最初は「ひかえめな」音だなと思った。
雨の音はちょっとわかりにくいが、実に繊細なサラウンドを構築している。静かな雨音が浸透する、新海作品としては今まで得られなかった空気感がある。
ダイアローグは視聴者にかなり接近して鳴る感じで、わざとらしく感じる場面もあるにはある。特に冒頭。ただし見続けるとともに、雨音との対比で妙にしっくりハマるようになる。
BGMのミックスもなかなかよく、効果音も含めて使うべきところではきちんとサラウンドの恩恵を得ている。
ある時雷が鳴り、それ以降はダイナミックレンジが一気に拡大して、畳みかけるように音が降ってくるようになる。後半からクライマックスにかけての音の力は、間違いなく『秒速5センチメートル』を圧倒的に上回る。新海作品における音の表現力もついにここまできたか。

聴きどころ:雷からの展開、虹降る階段


・総評
新海作品として、BDとしてのクォリティは過去最高。(前作は知らないけど、ソフトのクォリティでコレを上回っているとはちょっと思えない)
特に音の表現力が格段に上昇していることが喜ばしい。
あと、作品内容的にも一番好きかもしれない。いい意味で「おれはこういう作品が性に合ってる!」という開き直りがあって、見ていて清々しい。カメラワークがまた一段と近づいて、もっともっと登場人物に寄り添うイメージになったのもいい。
あと、すごくポジティブな終わりを迎えるのがなによりよかった。

BD、高いけど、買う価値はある。というより、DVDなんて買ってどうするの? という作品だ。



BDレビュー総まとめ