足かけ約5年、記念すべき200回目は、
「爆発とかしない映画で一本だけ選べ」と言われたら選ぶ作品


画質:10 音質:13


映像はAVC、音声はドルビーTRUEHDの24bit

画質について。
完璧なフィルム画質。
デジタルのポストプロセスが完成した時代において、撮り立てのフィルムを最高の鮮度で仕上げた映像。画の情報量や精細感といったスペック面ではデジタル撮影に一歩及ばないものの、フィルムでしか出せないあのたおやかな空気感、愛おしい光が目に染みる。
この作品に太陽と青空は無い。常に曇天の寒空の下で物語は進行する。体制側である秘密警察の施設内の空気は屋外の曇天のそれと同じで殺伐としているのに対し、作家宅の空気は暖かな空気が満ち、まっとうな人間が確かに生きているのだと、ひそやかに語りかけてくる。
見どころ:
作家のアパート
ラストの表情

音質について。
ドイツ語を正確に再生させるとかくも魅力的な音になるものなのか。
ダイアローグの凄味は間違いなく『レッド・ドラゴン』に匹敵している。ドイツ語の発音を余すことなく克明に表現するためには、必然的に超優秀録音にならざるを得なかったのだろう。唇の動きだけでなく、舌を含め、口の中の動きのすべてが伝わってくるかのようだ。声にならない微妙な擦れも一切合財音として収録されており、それらが生み出す類稀な音響にはまさに舌を巻く。
加えて素晴らしいのが、ありとあらゆる効果音が強固な存在感を持って主張してくること。陰鬱な時代の中、精一杯、生きているのだということを訴えかけてくるかのようだ。
そして、声と声、音と音、人と人の間に染み入る楽曲の数々。寄り添うように、佇むように、常に映像と美しい調和を保っている。あるタイミングで演奏されるソナタを聴けば、本気で聴けば、たしかに悪人になどなれるはずもなかった。
聴きどころ:

善き人のためのソナタ



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