*

ネットワークオーディオの「プラットフォーム」

ネットワークオーディオプレーヤーにおける世代間断絶と、本当に求められるもの

 上の記事で、

 ネットワークオーディオプレーヤーにおける真の世代間断絶とはユーザビリティの断絶である。

 では、そこから導き出される、ネットワークオーディオプレーヤーに本当に求められるものとは何か。


 「快適な音楽再生を実現・保証するプラットフォーム」である。


 と書いた。
 これはあくまで当時の状況と蓄積から導いた結論だった。
 そしてふと気付けば、中身がまんまJRiver & JRemoteのミュージックサーバーが登場したり、Roon/Roon Readyが世界を席巻しそうになったりしている昨今、この「プラットフォーム」という発想・概念は当時の私の想像を越えて重大な要素になったと感じる。

 そこで、「プラットフォーム」という発想・概念を用いて、あらためてネットワークオーディオの諸相を考えてみる。



 さて、ネットワークオーディオの文脈でプラットフォームと言った時、そこには大きく分けて二つの意味が含まれる。というより、私自身は少なくともそういう意図で今までプラットフォームという言葉を使ってきた。



 一つ目は、技術・規格・方式・仕組み・プロトコル・システム・ソフト的な意味でのプラットフォーム。
 UPnP/DLNAOpenHome、Linux/MPD、専用アプリを持つクローズドなシステム、Roon Ready/RAATといったものが該当する。でもって、これらはネットワークオーディオの三要素――「サーバー」・「プレーヤー」・「コントロール」の全領域にまたがるものだが、実質的にユーザーが気にする必要があるのはほとんどの場合プレーヤー。
(参考:Roon Ready、ネットワークオーディオ第五の矢

 これらは製品に先立ち、ある程度の汎用性と広がりを持つ。
 同時に、ある製品(もっぱらプレーヤー)がどのプラットフォームに対応・準拠するかを見れば、それだけで「その製品のユーザビリティはどのようなものか」をかなりの範囲と精度で把握することができる。
 特定のプラットフォーム、例えばOpenHomeに対応していれば、プレーヤーはそれ自体でまともな音楽再生機器であることが担保される。また、プレーヤーを作っているメーカーが純正コントロールアプリを用意していなくても、BubbleUPnPといった優れた汎用アプリで操作が可能。サーバーはUPnP/DLNAと共通して使える。
 つまり、「このプレーヤーはOpenHomeに対応・準拠しています」と言った瞬間、ネットワークオーディオに現時点で望み得る「上の上」の快適な音楽再生が実現可能になるのである。もちろん、実際にそれを得られるか否かはユーザー自身の心がけ次第だが。

 ちなみに、SONORE Sonicorbiter SEexaSound PlayPointのように、複数のプラットフォームに対応することでユーザビリティの高度化と最大化を図った製品も存在する。この手の製品は最近になって増えつつあるが、これも一つの方向性だろう。

 「専用アプリを持つクローズドなシステム」は後述する二つ目とだいぶ重なるところがあり、それを除けばJRiver Media Centerが残る。これはJRiverとJRemoteの組み合わせがあまりにも出来が良すぎたせいで、JRiverをプラットフォームとして採用したミュージックサーバーが登場したことによる。

 Roonはそれ自体ではJRiver同様「専用アプリを持つPCの再生ソフト」だったのが、2016年初よりRoon Readyの名でプラットフォームにもなった。持ち前の傑出したユーザー・エクスペリエンスを武器に様々なメーカーと思惑の一致を得て、ローンチ以来急激な広がりを見せている。

 ある程度の汎用性と広がりを持つという意味では、ReQuest Audioのシステムなんかも該当する。実はこんなところにも採用されていたりする。



 で、二つ目は、特定のメーカー・製品の基幹システム的な意味でのプラットフォーム。
 単一製品・単一世代のシステムに留まるものではなく、そのメーカーの製品(基本的にプレーヤー)全体に搭載されるという点が大きな特徴となる。
 ソフトだけでなく、ハード的な意味合いも大きい。AURALiCのように、CPU・メモリ・ストレージまで含めたトータルのハードウェア・プラットフォームとして確立しているメーカーもある。

 これを説明するのに最も相応しい製品はLINN DSをおいて他にない。
 LINN DSは当初UPnPをプラットフォームとして採用し、あっという間にそれを改良・拡張することで、ネットワークオーディオ草創期において圧倒的に優れたユーザビリティを実現する「LINN DSというプラットフォーム」を完成させた。その後、それをより汎用性を持たせた形でOpenHomeとしてオープンにし、新たなネットワークオーディオのプラットフォーム(これは一つ目の意味)をも生み出した。
 「LINN DSというプラットフォーム」も、Kazoo/Kazoo Serverとの連携によって音源レベルまで踏み込んだ操作性向上を図るなど、現在進行形で進化を続けている。そして言うまでもなく、音楽再生機器としての機能は第一世代を含めて完全に維持・統一されている。さすがすぎる。
 とはいえ、搭載CPUのスペック的な関係から、いつか、いつの日か、この理想が崩れる日がやってくるのかもしれない。それでも、LINNの果たした偉業を思えば、それは新たな次元への門出として、むしろ祝福されて然るべきだろう。

 特定のメーカー・製品の基幹となるプラットフォームは、LINN DSは別格として、一つ目の意味でのプラットフォームを利用・拡張していることも多い。要するに、「そのまんま使う」のではなく、「自分たちの理想に近付けるべく徹底的に手を入れる」のである。
 OpenHome系では、「Tesla Platform」を擁して盤石の体制を築いたAURALiC、全方位的に至れり尽くせりなLUMIN Appを擁するLUMINなどがある。
 Linux系では、同社製品に「Antipodes Core」を搭載するAntipodes Audio、サーバー・コントロールアプリまで一貫して面倒を見るAurenderなどがある。
 これらのプラットフォームは優れたコントロールはもちろんのこと、LINNのKazoo ServerやAURALiCのLightningServerなど、Aurenderのようなストレージ搭載ミュージックサーバーに限らず、サーバーの領域にまで踏み込んだものが多い。これは、名だたるメーカーが音源の重要性を把握していることの証左でもある。

 先に紹介したSONOREやexaSoundなども、純正アプリを持たないとはいえ、内的にはしっかりとプラットフォームが確立されていることは想像に難くない。
 国産機で好例を挙げるとすれば、毎度おなじみSFORZATOである。「SFORZATOというプラットフォーム」を確立しているからこそ、息の長い製品でありながらアップデートを続けてOpenHomeにもRoon Readyにも対応し、さらに製品世代間のユーザビリティの断絶も起こしていない。



 正直な話、「快適な音楽再生を実現・保証するプラットフォーム」となるためには、OpenHomeかRoon Readyに対応するだけでだいたいなんとかなる。妙な色気は出さず、あとは音質に注力してくれさえすればいい

 ネットワークオーディオプレーヤーのユーザビリティにメーカー自身の意思を込めたいと望み、そのうえでなお製品間・世代間断絶を起こさないためには、二つ目の意味でのプラットフォームの確立が重要となる。将来まで見据えたプラットフォームを確立してそれを共有し、アップデートしていくことで、価格帯や発売時期で各製品のユーザビリティがばらばらになるなんて事態は避けられる。この点で、LINN DSのなんと偉大なことか。もっとも、これは本来であれば音楽再生機器として「当然」求められる資質だとも言えるのかもしれないが。

 とにかく、その時々に出来ることを行き当たりばったりで採用し、前世代の製品を捨て置いていくような姿勢では、ネットワークオーディオプレーヤーで「音楽を快適に聴けること」を保証するのは難しい。
 なお、再生可能な音源のスペックは、特にプレーヤーの場合搭載するDACチップに依存する面もあるうえに、「プレーヤー」の本質とはあまり関係がない。


ネットワークオーディオとOpenHomeとRoon Ready


 ネットワークオーディオプレーヤーを作ってきたメーカーは岐路に立たされている。

 UPnP/DLNA対応というだけではいい加減辛い。ずっと前から辛い辛いと言い続けてきたが、もはやどうしようもないレベルで辛くなった。
 「快適な音楽再生を実現・保証するプラットフォーム」を結局確立できなかったメーカーは、今後の方向性を真剣に検討する必要があるだろう。

 別に純正のコントロールアプリを作らなくてもいいのである。別にRoon/Roon Readyの軍門に降ってもいいのである。PS Audioなんかは凄く転身が早かった。
 何度も言ってるように、自前でがんばった挙句要領を得ないシステムが出来上がるくらいなら、既存の優れたシステムを採用するほうが100億倍ユーザーの利益になる。
 あるいは、「プラットフォームそれ自体の器になる」という選択肢だってある。


 Roon/Roon Readyが登場し、何の努力もしない状態でユーザーが得られる快適性と音楽体験のレベルが著しく引き上げられた今、メーカーがそれぞれのプラットフォーム(二つ目の意味)で存在感を発揮するのはたやすいことではない。
 Roonとの違いを明確に打ち出すためには、OpenHomeにせよLinuxにせよ何にせよ、血と汗と涙を流しながら構築した「ユーザー自身にとって理想のライブラリ」にしっかり応え、快適な音楽再生の夢を最高の形で叶えるコントロールアプリの存在がますます重要となる。

 輝かしい希望と数多の絶望、夢破れた荒廃を経て、ネットワークオーディオはとうとうLinn KazooやBubbleUPnPが提供するユーザビリティが「上の上」ではなく、「スタートライン」となる時代がやってきた。
 凄い時代である。


 LINN DSの登場後、断片的に漏れ伝わってくるネットワークオーディオという新たな領域に抱いた夢は、決して間違いではなかった。



Roon関連記事まとめ

【音源管理の精髄】 目次 【ネットワークオーディオTips】

【レビュー】 視た・聴いた・使った・紹介した機器のまとめ 【インプレッション】

よくある質問と検索ワードへの回答

スポンサーリンク


関連記事

「真のハイレゾ対応」爆誕!

音茶楽、40kHz以上再生できるイヤフォンをハイレゾ対応と定義。“真のハイレゾ”ラベルも

記事を読む

【音源管理の精髄】 Asset UPnPをQNAPで使う 【ネットワークオーディオTips】

↓情報を統合・刷新した記事を作成したのでこちらを参照↓ サーバーソフトの紹介 『Asset U

記事を読む

no image

【BDレビュー】 第190回『KICK-ASS』 北米盤

やる気無さすぎの日本版はスルー余裕でした 画質:8 音質:13 映像はAVC、音

記事を読む

【ネットワークオーディオTips】続・理想のネットワークオーディオプレーヤーを考える

理想のネットワークオーディオプレーヤーとは?  前回の記事から1年以上が経った。  LU

記事を読む

“ハイレゾ対応機器”の定義が発表されたので

 自前の機材がどれだけ“ハイレゾ対応”なのかちょっと調べてみた。 日本オーディオ協会、“ハ

記事を読む

【CES2016】AKM VERITA AK4497

"VERITA" AKM 歴代最高音質・性能の新フラグシップ プレミアムD/Aコンバーター AK44

記事を読む

Fidelizer Nimitra Computer Audio Server その2

Fidelizer Nimitra Computer Audio Server  日本未上

記事を読む

【UHD BDレビュー】第2回『デッドプール』 北米盤 【Dolby Atmos】

 記念すべき初UHD BD、2本の内の1本。 画質:11 (画質はHD環境・BDと同じ

記事を読む

【ネットワークオーディオTips】コントロールアプリの検証 2014-2015

※評価項目を整理し直したので2014/06/30公開の記事を再掲※ 始まるのがだいぶ遅くなってしま

記事を読む

【ネットワークオーディオTips・実践編】foobar2000を使って手っ取り早くDSD256対応のネットワークオーディオ環境を作る

 安くて早くて多機能で夢が広がるfoobar2000を例に、実践編のまとめとして。  ネットワーク

記事を読む

スポンサーリンク

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

スポンサーリンク

LUMIN A1、導入3周年 終わらない進化とMQA対応

 LUMIN Appはバージョン3から相変わらず最強だし、  iPh

【UHD BDレビュー】第18回『シン・ゴジラ』

【考察】シン・ゴジラとヤマタノオロチ、そして現代のスサノオ神話

PS3の出荷(近日)完了に寄せて

PS3本体の出荷が近日終了 - GameSpark  私のP

【Roon Ready】CHORD Poly

 CHORD Mojoに接続して使う、Roon Readyの「ポータブ

【UHD BDレビュー】第17回『オペラ座の怪人』

『オペラ座の怪人』のUHD BD 画質:9 (画質は

LUMIN is NOW Roon Ready! そしてMQAとSpotifyにも対応予定

LUMIN STREAMING SERVICES  ほんとに

【レビューまとめ】fidata HFAS1-XS20 ― 専用機であるということ

外観編 音質・サーバー編 音質・ミュージックサーバー編

【レビュー】fidata HFAS1-XS20 × OPPO Sonica DAC 音質・ミュージックサーバー編

外観編 音質・サーバー編 fidataのCDトランスポート

【Roon Ready】dCSのNetwork Bridge

dCS、RoonReady対応のネットワークトランスポート「Netwo

fidataのCDトランスポート機能を使ってみた

fidata公式サイト USB接続光学ドライブにセットしたCDを

Roon 1.3 (Build 208)とTIDAL Masters

TIDAL MASTERS with MQA  RoonのB

デジファイ No.25で記事を執筆しました

DigiFi(デジファイ)No.25 3月2日(木)発売【特別付録】ハ

Raspberry Piとワンボードオーディオ・コンソーシアム

Raspberry Piで音楽再生、「ワンボードオーディオ」共通規格化

【レビュー】fidata HFAS1-XS20 音質・サーバー編

外観編 音質・ミュージックサーバー編  まずは、純粋な

【ハイレゾ音源備忘録】John Mayer / Continuum

・アーティスト / アルバムタイトル John Maye

【ハイレゾ音源備忘録】John Mayer / The Search for Everything – Wave Two

・アーティスト / アルバムタイトル John Maye

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』がUHD BDでリリースされなかった……

スター・ウォーズ最新作『ローグ・ワン』4月28日にBD発売。プレミアム

「FAN AKITA」のプロジェクトが終了しました

クラウドファンディングサービス「FAN AKITA」でプロジェクトを実

【レビュー】fidata HFAS1-XS20 外観編

fidata HFAS1-XS20 - 言の葉の穴  もっと

【菅江真澄紀行文・本編紹介】第十章「羽後に群立つ神杉の座所」

クラウドファンディングサービス「FAN AKITA」でプロジェクトを実

→もっと見る

PAGE TOP ↑