ネットワークオーディオの本質

 2013/12/22初出の記事を、核心はそのままに、今までの蓄積と現状を踏まえて更新。
 

 タグ。ライブラリ。アルバムアート。サーバー。プレーヤー。
 ネットワークオーディオを構成する様々な要素について記事を書いてきた。

ネットワークオーディオの三要素:【サーバー】【プレーヤー】【コントロール】【2023/10/29追記】  良い機会だと思って、記事をリニューアルした。 https://audio-renaissan...

 ここであらためて問い直そう。
 

 ネットワークオーディオとは何か。
 

 NASなどのサーバーから、ネットワークオーディオプレーヤーに、LANで音源をストリーミングして再生するシステム。「ネットワークオーディオ」というと、おおむねこのように理解されている。すなわち、単純に「仕組み」としてネットワークを使う機器/システムを指す。

 この認識自体は決して間違いではない

 しかし、この答えには、極めて重要な要素が欠けている
 

 『コントロール』である。

 そして、『コントロール』こそがネットワークオーディオの本質である。
 

 ネットワークオーディオにおいて、ネットワークという要素は空間に制約されないコントロールを実現するという意味において重要である。この時、大切なのは「コントロール=ネットワークを活用してどのように音楽を聴くか」がもたらす体験であって、どのような機器/システムを使うかではないし、音質でもない

 
 再生機器の設置場所という物理的制約から解放された状態で、音楽ライブラリを縦横無尽に駆け巡り、聴きたい曲を自由自在に聴く。再生機器の小さなディスプレイをにらみながら物理ボタンやリモコンをポチポチすることなく、PCに向き合ってマウスをカチカチすることもなく、オーディオルームの椅子に身を預けたまま、あるいはその辺に寝っ転がりながら、音楽再生のあらゆる操作を手元の端末から行う

 「ネットワークを用いて再生機器からコントロールを独立させる」というスタイル
 これこそ、音質云々やデータ転送の仕組み云々を越えた、他の方式とは決定的に異なる、ネットワークオーディオをネットワークオーディオたらしめるものだ。

 最終的に出てくる音の良し悪しは、他の方式でもそうであるように、システムの構成とセッティングを含む全体の結果である。「ネットワークオーディオの音質」という言葉と、システムを構成する個々のハード・ソフトの実力は峻別して考える必要がある。
 

 従来オーディオで追求してきた高音質と、デジタル・ファイル音源を扱うことで得られる利便性。そこに「快適に音楽を聴く」という新たな価値を付け加えるという部分に、ネットワークオーディオの存在意義がある。音質と快適さの両立がここで実現する。

 よって、「PCをそのまま使って聴いたほうがよほど快適だからネットワークオーディオなんて要らん」と言われれば、そこでおしまいである。それはそれで別にいい。音源の管理とライブラリの構築は無駄にならないし、音楽を聴く環境は様々で、何に快適さを感じるかは人それぞれ。そこで食い下がるつもりはない。

 ただ、例えば「LANケーブルで音が変わる」とか「ハブで音が変わる」とか、そういういかにもな話題にばかり注目が集まって、結果的にそれだけでネットワークオーディオがネタ扱いされたりこき下ろされたりするというのは見るに忍びない。
 オーディオの一領域である以上、音が良いことは当たり前。もちろんネットワークオーディオでも、ハードとソフトの両面で音質を追求する様々な努力は常に行われている。それに関連して、上で触れたようないかにもな側面があることは否定できない。というより、オーディオなんて得てしてそんなもんだ

 しかし、決してむやみな音質の追求がネットワークオーディオのすべてではない
 ネットワークオーディオには「快適な音楽再生」という揺るぎない価値があるのだ。
 

 繰り返すが、ネットワークオーディオの本質はあくまで『コントロール』である。
 サーバーやプレーヤーの設置場所という制約から解放される――つまり、音楽を聴く場所に「居ながらにして」、音楽再生のあらゆる操作が可能になるというのが肝になる。
 

 実例を挙げると、
 

 『NASを用意して、ネットワークオーディオプレーヤーにLANで音源をストリーミングして再生しているが、選曲や操作はプレーヤー本体の画面で行っている』

 これはネットワークオーディオの実践ではない
 

 一方で、
 

 『単体ネットワークオーディオプレーヤーもNASも使っていないが、PCの再生ソフト(foobar2000やらMediaMonkeyやらJRiver Media Centerやら)をネットワーク越しに専用アプリでコントロールしている』

 これは立派なネットワークオーディオの実践である
 

 単体ネットワークオーディオプレーヤーを使っているからといって、ネットワークオーディオを実践しているということには必ずしもならない

 逆に、PCとスマホとWi-Fi環境さえあれば、完全な形でネットワークオーディオの実践が可能である。
 
 

 それではあらためて、私の考える『ネットワークオーディオ』とは何か

 『音楽再生におけるコントロールのスタイル』である。

 「どう音楽を聴くか」――スマートフォンやタブレットなどの手元の端末からすべての音源にアクセスし、音楽再生のあらゆる操作を行うというスタイルにこそ、ネットワークオーディオの本質がある。
 

 ネットワークプレーヤーを使うことがネットワークオーディオなのではない。
 NASを使うことがネットワークオーディオなのではない。
 ネットワークオーディオにはNASが必須だというのは大きな誤解
 LANで音声データを転送することがネットワークオーディオなのではない。
 UPnP/DLNAを使うことがネットワークオーディオなのではない。
 PCを使わないことがネットワークオーディオなのではない。

 ネットワークオーディオとは特定の再生機器に限定されるものではないのである。
 

 「機器」の存在を重要視する業界の共通認識と異なることを言っている自覚はあるし、必ずしも多くの人から同意を得られるとは思っていない。
 それでも、ネットワークオーディオに向き合い、実践し、検証し、考察を続けた結果として、私は以上の認識に辿り着いた。
 

 そして、

 居ながらにしてすべてを見、すべてを操ることで得られる、音楽再生における筆舌に尽くしがたい快適さ。

 これこそ、私が多くの人に味わってほしいと願ってやまない、ネットワークオーディオがもたらす福音である。
 

 タグ。
 ライブラリ。
 アルバムアート。
 サーバー。
 プレーヤー。

 そして、『コントロール』。
 ネットワークオーディオを構成する最後のピース。
 快適な音楽再生が最終的に実現するか否かはここで決まる。

 血と汗と涙を流しながら取り組んできた音源管理も、システムの構築も、あと少しで報われる。
 
 

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