Dynaudio Sapphireに今もぞっこん
Sapphireの足元 その3【完結】


 プロジェクターとサラウンドスピーカーの位置に次いで、私のシステムにおいて長期間何の変化もなかったのが、メインスピーカーであるDynaudio Sapphireの足元。ちなみにサラウンドスピーカーの足元はこないだついに手を加えた

 Sapphireの足元は、ブビンガのボード・付属のスパイク・超々ジュラルミンのスパイク受けという組み合わせで完璧に決まっていた。

 「手を加える理由をまったく見出せないレベルで満足しきっている」からこそ、今までなんら手を加えてこなかったのである。


 とはいうものの、「満足しきっている」ことと「向上心が失われている」ことは、私のオーディオ趣味において必ずしも同義ではない。
 音を聴くたびに満ち足りて「別に何もしなくていいや」と思う一方で、「もっと音が良くなればいいなあ」との思いがなくなるわけではないである。

 そんなこんなで、「ブビンガのボードにスパイク&超々ジュラルミンのスパイク受け」という組み合わせには満足しつつも、「何かするなら何がいいだろう?」とは常に考えていた。


 Sapphireの足元を考えるうえで避けて通れないのは、見るからに「頭でっかち」なプロポーションである。

 ただでさえ不安定感のある足元をますます不安定にさせるような設置方法は、もうその時点で除外することになる。
 そしてブビンガのボードはBordeaux仕上げのSapphireとの調和も含めて最高に完璧なので、交換はまったく考えていない。


 そこで目を付けていたのが、超高級なラックを手掛けるメーカー・finite elementeの「CERABASE」というインシュレーターだった。高精度なセラミックのボールを使って振動を云々……という内部構造よりも、むしろ「ネジを使ってスピーカーの脚部にスパイクと交換する形で装着できる」という点、そして一体型である点に魅力を感じたのである。

 「これなら現状のスパイク&スパイク受けよりも安定感がある」――Sapphireの足元を考えるうえで最も重要なのは「安定して設置できること」であり、その意味でCERABASEの製品(特に上位モデル)はまさにうってつけに思えた。そのうえ音も良くなるとしたら最高だ。


 しかし、やっぱり音を聴くたびに満ち足りて「別に何もしなくていいや」となってそのまま何もしないでいたら、2017年10月にfinite elementeの取り扱いが終了し、CERABASEの製品も手に入らなくなってしまった。残念。


 finite elemente/CERABASEが姿を消した今、「ネジを使ってスピーカーの脚部にスパイクと交換する形で装着でき、明らかに安定感が高そうな一体型構造で、さらに音も良さそうなインシュレーター」は、はたしてあるのだろうか?



 ……ある。

 それがStillpointsの製品だった。

画像引用元: http://www.bright-tone.com/pages/135.html


 ボールによって振動を低減・吸収するという仕組み、ネジを使ってスピーカーを含む様々な機器の脚部と交換可能、安定感の高そうな構造など、パッと見た感じの印象ではCERABASEとStillpointsの製品はよく似ている。

 決定的に異なるのは、Stillpointsの方がとにかく高額ということだ。
 無論CERABASEとて、私が目を付けていた上位モデルは決して安価な製品ではなかった。しかし、Stillpointsの製品は最も安価な「ULTRA MINI」インシュレーターの時点でCERABASEの上位モデルの価格に匹敵し、その上の「ULTRA SS」になると軽く上回る。さらに上位の「ULTRA 5」に到っては、なんと一個で15万円(税別)、スピーカーペア用に8個買うと120万円にもなる。Stillpointsの中では最も安価なULTRA MINIではそもそも安定感が高まるとは思えないし……



 随分と前置きが長くなったが、そんな私の経済的現実から完全にかけ離れたStillpoints製品を試す機会があった、というのがこの記事の趣旨である。



 Stillpoints製品はオプションを含めて様々な使い方が可能なことも特徴のようだ。


 これはULTRA SSで、上下両方にネジ穴が用意されているほか、オプションの「ULTRA BASE」(これまた高くて……)と組み合わせて安定感を高められる(上の写真)。


 これがULTRA 5。でかい。重い。なんと重さは一個につき1510g。もはや鉄塊。


 ちなみにSapphireに付属するスパイク&今まで使っていたスパイク受けはこんなもんである。



 今回は、本来私とは最も縁遠い存在のULTRA 5をSapphireに装着することにした。
 変換ネジの関係で円の径が小さい方が下に来る装着方法となったが、上下を逆にすると当然音も変わってくるのだろう。とりあえず逆にした方が設置の安定感が増すことは確かだが、ULTRA 5にさらにULTRA BASEを組み合わせる方法もあるようだ。


 なおULTRA 5・ULTRA SSは下の画像のようにスパイクも装着可能。しかし「Sapphireの設置の安定感を増す」という私の意図から外れるので今回は使わなかった。後述する「なじみ」の話は、スパイクを使わなかったこととも関係するのかもしれない。

画像引用元: https://www.stillpoints.us/index.php/product/ultra/95-ultra-5#!ultra5_ss_spikes



 スパイク&スパイク受けの状態と並べてみると……見た目の差は歴然としている。





 スパイク&スパイク受けからULTRA 5に変えた直後の音は、正直なところ「あれっ?」という感じだった。

 音楽全体に凄まじいまでの盤石感がある。音がまったく揺るがない。ぶれない。乱れない。揺らぎが消えた結果、埋もれていたディテールの描写力が著しく高まる。前後左右上下の空間性と定位が著しく明瞭になる。
 低域の改善は予想通りとはいえ歴然としている。ベースラインやバスドラムの盤石にして強靭な輪郭描写は只事ではない。揺らぎの消滅は中高音の鮮鋭化や立体感の向上にも目覚ましい効果を及ぼす。
 とにかく、Sapphireってこんなにも切れ味鋭く彫りの深い音を出せたのかと驚いてしまった。Hi-Fi的な、オーディオ的な指標でいえば広範な部分で間違いなく大きな改善が認められる。それでいて神経質な印象には転ばず、音楽の表情はむしろ穏やかでさえある。

 これだけの改善を認めながら、なぜ「あれっ?」と思ったかということだが、それは一聴して「なにやら力が抜けてしまった」と感じたからだ。音は良くなった。それは間違いない。しかし、音の良し悪しとは少々離れたところにある、「聴く者の感情に働きかける力」が弱まってしまったように感じたのだ。これはつらい。

 うーむ。


 あまり悩んでいても仕方がないので、いったんソースを音楽から映画に変える。

 驚愕した。映画音響における改善効果は音楽の比ではなかった。
 シャーマンやティーガーの砲撃も、イェーガーのエルボーロケットも、ノルマンディー上陸作戦も、異界と化した前田高地も、雲霞の如く襲い掛かるセンチネルとAPUの死闘も、大地を踏み鳴らす騎兵隊の突撃も、ネオ東京を暴走する健康優良不良少年も、まるで別物と呼べるほどの冴えを聴かせる。『グレイテスト・ショーマン』や『ボヘミアン・ラプソディ』といった映画の音楽シーンにおいても、素晴らしい改善が感じられた。

 これは元々通常の音楽ソースではあり得ないような低音や刺激音が満載で、猛烈な瞬発力を要求される映画音響と、ULTRA 5による改善の方向性が完璧に一致した結果だろう。今までのスパイク&スパイク受けでは、映画音響の膨大なエネルギーを受け止めきれていなかったのかと考えると、少々複雑な気分ではある。


 映画での効果に気を良くしてその日は寝て、翌日になって再びソースを音楽に戻すと、前日とは音が一変していた。

 既に感じていた様々な改善がさらに深まりつつ、「なにやら力が抜けてしまった」という印象が払拭された。スパイク&スパイク受けの状態がそうであったように、音楽が楽しげに、しっかりと前に出てくるようになった。これはいい。実にいい。


 と、ここで、定位から曖昧さが消失したことを踏まえてスピーカーの位置を微調整するべくSapphireをわずかに動かして聴いたら、再び音楽から力が抜けてしまった。
 
 この時は慌てず騒がず、約一時間ほど音楽を鳴らしていると、音楽の表情がみるみるうちに元の力強さ取り戻していった。そして、時間が経てば経つほど諸々の改善効果が大きくなっていくように感じられた。どこかで臨界点は訪れると思われるが。

 つまりULTRA 5は設置後に諸々の機械的ストレスが取れて本来の性能を発揮するまで、ある程度の時間や鳴らし/馴らしが要るようだ。別にStillpoints製品に限らず、ありとあらゆるオーディオ機器の設置にはある種の「なじみ」が必要と思われるが、インシュレーターとしては複雑な構造のStillpoints製品、特に構造が大掛かりなULTRA 5ではその影響が大きいのだろう。



 結果的に、Stillpoints ULTRA 5はSapphireの純正スパイク&スパイク受けと交換することで、音楽と映画の両方で目覚ましい効果を発揮した。Sapphireの底力、まだ見ぬ地平を目の当たりにした気分である。

 冷静に考えれば、スピーカーペアで8個/120万円(三点支持なら6個/90万円)というULTRA 5の価格は、インシュレーターとして異様もいいところだ。SOULNOTE A-2よりもfidata HFAS1-XS20よりもSFORZATO DSP-Doradoよりも高額なのだ。改善効果が金額に見合っているかと問われれば答えに窮する面もある。もし私が導入するなら、ULTRA SSとULTRA BASEの組み合わせが現実的に可能なぎりぎり……本当にぎりぎりの線だろうか。

 しかし、一度装着してセッティングを詰めた鳴らし込んだ後、「ULTRA 5を取り外したくない」と強烈に思ったことは紛れもない事実である。もう一度スパイクに換装するのが大変だとかそういうのはさておいても。

 プレーヤーもアンプもスピーカーも全部求めるものを揃えて満足して、それでもなお「愛してやまないスピーカーの足元に何かしら手を加えよう」と思った時、ULTRA 5が極めて強力な選択肢になることは間違いあるまい。いやはや、オーディオ趣味は奥深く、恐ろしく、そして楽しい。



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