「センタースピーカーさえ無ければ」と何度思ったことか

 今まで、何かしら試聴機が届くたびに、ラックの一番上のセンタースピーカーをどかしてスペースを作ってきた。
 こんな具合に。
2015020623

 これも機材に対する礼儀だと思いつつ、その都度Focus200Cを置いては外しを繰り返してきたのだが、めんどくさいことこのうえなかったのも確か。
 試聴機が来るたびに映画が見れなくなる(見ようと思えば見れなくはないが)というのもいかがなものかと思っていた。

 
 先日LUMIN T1とD1の試聴機がやってきていた際、急にゴジラ(2014)が見たくなった。
 本来であれば試聴機を撤去していつものようにFocus200Cを置いて……というひと手間をかけるところを、再度の設置と結線が嫌で、そのままセンターレスで見ることにした。

 ……

 …

 ん?

 センター無いほうが音が良くないか???

 いや、そんなはずは……
 BDレビューを書く時ほど感覚を研ぎ澄ませていないからかもしれないし、単にゴジラが上手くハマっただけかもしれない。
 というわけで、T1とD1の試聴そっちのけで、BDをとっかえひっかえしてセンターレスの音を聴きまくった。
 『プライベート・ライアン』『パシフィック・リム』をはじめとするスーパードンパチ映画。
 『レッド・ドラゴン』『英国王のスピーチ』をはじめとするダイアローグが肝の映画。
 『ヘアスプレー』『オペラ座の怪人』をはじめとするミュージカル映画。ついでにアナ雪からLet It Goも。
 色々と聴きまくった。

 結論から言うと、「センターが無くても問題がない」どころか、明らかに「センターが無いほうが良い」という結果になった。
 センタースピーカー原理主義者の私にはなかなか辛い? 結果だった。しかし、そもそもセンタースピーカーを使う目的が「より高いレベルの音響再生」である以上、センタースピーカーを撤去することでそれが得られるのなら、それを受け入れないわけにもいくまい。むしろ、センタースピーカーを外しても音が悪くならないとわかった途端、今まで必要悪として我慢してきた色んなものが一気に意識されるようになってしまった。

 センタースピーカーを撤去することで得られた恩恵は大きく分けて三つ。
 一つ目は、空間表現力の向上。
 二つ目は、情報量の増大。
 三つめは、セッティングの自由度の向上。これは副次的なものだが。

 空間表現力の向上について。
 センタースピーカーは必然的かつ物理的にスクリーンの下に置かざるを得ない。なおかつ、フロントスピーカーのツイーターの高さからも大きく下がることになる。よって、どう頑張っても、劇中のダイアローグはスクリーンの下側に引っ張られる。床に直置きなどもってのほかだ。だからと言ってセンタースピーカーの高さを無闇に稼げば、それに比例してスクリーンの位置が上がってしまって破局を迎える。
 一方で、センターを外してフロントに……Sapphireに集約させると、ツイーターの高さとスクリーンの中心がほぼ一致するがゆえに、声が画面中央と完璧に一致する。センターを外したことによる定位感の低下はほとんど感じられない。伊達にステレオの定位を追い込んじゃいない。さらに、画面を左右に横切るような音に至っては、画面下に置かれたセンターの影響が一切なくなることで、さらにスムーズかつ迫真の表現力を発揮するようになる。

 情報量の増大について。
 「センターを外すことによる情報量の低下」こそ、私が最も恐れていたことだった。単に「声が真ん中から聴こえる」ではなく、物理的にスピーカーが一個増えることによる「情報量の増大」こそ、センタースピーカーを使う最大の理由だった。
 ところが、センターが担っていた声をはじめとする音を振った途端、フロントは……SapphireはFocus200Cが消えたことによる不安を掻き消すだけの音をいとも容易く出してしまった。
 減るどころか、増えた。

 これらの変化は特にミュージカル映画に置いて顕著だった。
 『ヘアスプレー』も『オペラ座の怪人』も、今まではいったい何だったんだと思うくらい、過去最高の音で鳴った。

 セッティングの自由度の向上について。
 センタースピーカーもれっきとしたスピーカーであるので、良く鳴らすためには設置に気を付けなければならない。前述のとおり、面倒なのは、センタースピーカーの設置はスクリーンの位置・大きさと相関関係にあるということだ。例えばサウンドスクリーンの裏側にフロントのツイーターと高さを合わせて置くでもしない限り、真の意味で理想的な設置は難しい。
 さらに、私のように視聴位置前方にラックなり何なりを置いて機器を設置している場合、それらと同居する必要も出てくる。センタースピーカーのサイズが大きくなれば大きくなるほど、ラックの形状も設置の自由度も著しく制限される。
 センタースピーカーがなくなった途端、一気に自由度は増す。スクリーン位置との兼ね合いは依然として必要だが、センタースピーカーの設置に頭を悩ませるのに比べればたいした問題ではない。

 
 結局のところ、私のシステム/環境においては、センタースピーカーを外すことですべてが良い方向に向かったようだ。もっとも、99%Sapphireの能力のおかげだと思うが。
 もっと部屋が広いとか、あまり音量を出せないとか、フロントスピーカーがイマイチということになれば話も変わってくるだろう。というより、ほとんどの場合センタースピーカーがあった方がいいはず。
 少なくとも現状では、ピュアオーディオとホームシアターの幸せな融合を目指すうえで、「7.0chサラウンド」ではなく、「完璧に追い込んだステレオ+サラウンドエフェクト4ch」という思考が最適解になりそうだ。

 
しばしさらば、Focus200C