Roon Ready、ネットワークオーディオ第五の矢

 ネットワークオーディオの三要素がある。
ネットワークオーディオの三要素

 『サーバー』・『プレーヤー』・『コントロール』。
 この三要素と、三要素から成るこの三角形は、どれだけ使用するハード・ソフト・システムが変わろうと、それが「ネットワークオーディオ」である限り普遍的である。
 ネットワークオーディオとは再生機器に何を使うかに限定されるものではなく、音楽再生におけるコントロールの方法論だからだ。
 「音源のデータを伝送するケーブル」がLANかUSBかは関係ない。「ネットワークを活用したコントロール」こそがネットワークオーディオの本質である。プレーヤーをLANケーブルで繋ぐシステムはすべからくネットワークオーディオ、PCとUSB DACをUSBケーブルで接続するシステムはすべからくPCオーディオ、などという認識はさっさと捨て去るべきである。

 
 ネットワークオーディオの三角形において、各要素を繋ぐ「線」に相当するもの――技術、規格、あるいはプラットフォーム――を、大きく四つ挙げてみる。

 一つ目は、UPnP/DLNA
 毎度おなじみ「DLNA対応」のアレである。
 目下単体プレーヤーにせよ、サーバーソフトにせよ、基本的にUPnP/DLNA対応ということが一つの指標になっている。目にする機会が非常に多い一方で、「ネットワークオーディオとはDLNAに対応していることである」という視野狭窄的な認識も生み出している。
 歴史ある規格である一方で、「そのまま」音楽再生に利用するとあまりにも「痒いところに手が届かない」ようで、結果的にDLNA対応を免罪符にした「音楽再生機器として使い物にならない単体プレーヤー」が大量生産されることにも繋がってしまった。
 LINN DSをはじめとする真っ当な単体プレーヤーは、まともな音楽再生機器として機能するために、UPnPがそのままではなく、独自に拡張されたうえで使われている。この「UPnPの独自拡張」が、後のOpenHomeに繋がっていく。

 二つ目は、OpenHome
 いつまで経ってもまともな単体プレーヤーがまるで出てこない状況に「このままではネットワークオーディオ=クソの評価が完全に定着して我々まで糞死する羽目になる」とLINNが思ったかどうかは定かではない。とにかく、LINNは「UPnPの独自拡張」の部分、すなわち「ネットワークオーディオプレーヤーをまともな音楽再生機器たらしめる諸々の機能」をまとめ、OpenHomeとしてオープンにした。皆で上に行こうという意識、これぞ王者の貫禄である。
 OpenHomeはUPnPと実質的にある程度の互換性を持ちつつ、「ただのUPnP/DLNA」とは隔絶した機能を有する。もっとも、隔絶したなんて言っても、つまるところLINN DSがずーっと昔に実現していた機能というだけなのだが。具体的には、ギャップレス再生は言うに及ばず、On-Device Playlistと、それに付随するコントロールアプリにおける諸々のメリットといった具合である。
 ここ2年ほど、海外産のネットワークオーディオプレーヤーでは急速にOpenHomeへの対応が拡大してきたが、国産ではスフォルツァートのプレーヤーなどのごく僅かな製品に留まる。ESOTERICの新型機がOpenHomeに対応というニュースが記憶に新しい。
 とりあえず、プレーヤーが対応していればまともな音楽再生機器であることがある程度保証されるという意味で、OpenHomeの存在は大きい。
 ちなみにOpenHomeは基本的にプレーヤーとコントロール間で使われ、サーバーはUPnP/DLNA対応のものがそのまま使用可能。
 UPnP/DLNAのことしか考えてないコントロールアプリでOpenHome対応プレーヤーを操作すると高確率で妙な展開になるが、今時そんなアプリを使い続けなければいけない理由は皆無なので別に困らない。

 三つめは、Linuxを用いたシステム。
 正直なところLinuxは門外漢なのでアレなのだが、MPD用のコントロールアプリも色々とあり、UPnP/DLNAやOpenHomeとはまた違ったプラットフォームが出来上がっているようだ。
 Antipodes DX Music Serverなど、Linuxのシステムを完全なオーディオ機器としてパッケージングした製品も存在する。

 四つ目は、クローズドなシステム。
 これはUPnPのようにサーバー・プレーヤー・アプリ間で互換性がなく、それぞれが一対一の関係で繋がるものを指す。つまり、PCの再生ソフトと専用コントロールアプリを組み合わせたシステムなど、上記三つのいずれにも当てはまらないものが該当する。PCを使う場合、PCとUSB DACと接続するというその一点だけを見て「PCオーディオ」と断じられがちだが、これは紛れもないネットワークオーディオの実践である。
 すべての方式について項目を立てていくと収拾がつかなくなるので、Aurenderのようにクローズドなシステムを構成する単体プレーヤーや、Merging NADACのように独自性の強いネットワークDAC、といった製品もここに含める。ソフトそのものはLinuxは組んでいるという製品も多いだろうが、Linuxをプラットフォームとして利用しているかどうかで判断している。

 AirPlayは最初からピュアオーディオを相手にしていないので除外。
 他にもSqueezeboxやら何やらもあるが、規模的にアレなので除外。

 
 そして2016年、いよいよ第五の矢が放たれる。
 Roonである。

 
Roon Labs Roon Ready Hardware Program NEW - Mono and Stereo

Networked audio offers countless benefits, but until now its complexity and lack of reliability have kept it on the margins of performance audio. With Roon Ready, we look forward to teaming with our partners to make networked audio widely adopted in the high performance space,” continues Vandermeer.

Over 30 partners have signed on to the Roon Ready program, including Audio Alchemy, Auralic, Bel Canto, Bryston, Cary Audio, Constellation Audio, dCS, Exasound, LH Labs, Lumin, PS Audio, Small Green Computer, Sonore, SoTM, and TotalDAC.

 パートナーには凄まじい面子が並ぶ。

 
 現状、Roonから単体ネットワークオーディオプレーヤーに出力するにはAirPlayを使うしかない。UPnP/DLNAは組み込まないのかな、プッシュ再生を使えばうまいことできそうなもんだが、と思ったら、要は「そんなもん使うくらいなら自分たちで新しく作る」ということだった。OpenHomeにすら見向きもせずに。
 こうして、UPnP/DLNAでもOpenHomeでもない、Roon独自の伝送プロトコル(RAAT)に基づくネットワークオーディオのプラットフォームが誕生した。それが「Roon Ready」である。

 Roon Readyに対応したプレーヤーは、Roonとネットワークで繋がり、Roonからデータのストリーミングを受ける。つまり、現状Roonの出力先にUSB DACが選べるのと同じように、Roon Readyのプレーヤーが選べるようになるというわけだ。
 ちなみに、このRoon Ready以前に、Roonは既にHQPlayerやSqueezeboxを出力先として選択できるようになっている。もちろんUSB DACを含むマルチルーム伝送にも対応している。

 ※この辺りはCES2016で色々と情報が出たのでこちらの記事を参照。

 気になる点は、「Roon以外のアプリでもRoon Readyのプレーヤーをコントロールできるのか、またRoonの音楽の海の恩恵を受けられるのか」、である。もしそれができないとすれば、ネットワークオーディオの三要素のうち「サーバー」と「コントロール」が完全にRoonに掌握され、「優れた専用/汎用コントロールアプリとの組み合わせ」で輝くプレーヤーの独自性は著しく弱まる。それこそ、実質的に「ネットワークに繋ぐだけのただのDAC」の扱いになる。「再生ソフトと、ソフトと一対一で機能するコントロールアプリと、USB DAC」の組み合わせ、そのまんまである。
 Roonの「音楽の海」をネットワークオーディオのスタイルで活用することは、既にRoonと純正アプリとUSB DACの組み合わせで実現できている。ただ、純然たる「音楽再生のコントロール」という点では、BubbleUPnPやLUMIN Appといった、優れたOpenHome対応のアプリに分がある。
 既存の優れたコントロールアプリの操作性が今後も生かされ、なおかつプレーヤーを作るメーカーのコントロールに対する独自性が消えてしまわないよう、Roonの機能――特に「音楽の海」を泳ぐ楽しみが巧く統合されることを期待したい。
 もっとも、Roonはコントロールアプリとしてもそんじょそこらのアプリよりよほど良く出来ているので、「よっしゃ、こうなりゃコントロールも全部Roonにお任せだ!」となるメーカーが出てきてもまったくおかしくはない。

 
 こないだ、ひょんなことからRoonのCEOのVandermeer氏と話す機会があった。
 実に刺激的かつ意義深い会話だったが、その中で、「私たちはネットワークこそが未来だと考えているけれど、その辺どう思う?」と問われた。
 私は「まさしく」と答えつつ、「私が言いたいのは、ネットワークオーディオとは使うプレーヤーに限定されるものではなく、コントロールのスタイルだ、ということです」と付け加えた。
 すると、「それこそ私たちも信じていることだ!」と激しく同意された。

 私とRoonのスタッフは、ネットワークオーディオに関して同じ認識を共有している。
 そんな彼らが、既にRoonをあれだけの完成度で仕上げたうえで作る、新たなネットワークオーディオのプラットフォームである。
 期待しないほうが難しいというものだ。

 
 OpenHome、TIDAL、Qobuz、そしてRoon。

 いやはや、プレーヤーを作るのは大変だな。

 
 
ネットワークオーディオの「プラットフォーム」

ネットワークオーディオとOpenHomeとRoon Ready
 
 

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