【BDレビュー】第126回『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』

画質:13 音質:14(改訂)
 

映像はAVCでビットレートはかなり高めな気がする。
音声はDTS-HDMAの16bit、6.1ch。

画質について。
最初に言っておく。
目が醒めるような清廉極まりない画質である。
で、とりあえず、15点を付けなかった理由二点を先に述べておく。
まず、明らかに解像度が足りていないカットが2,3あったこと。これはソフト化に当たっての問題ではなく、作品製作途上での問題としか考えられないが、何故こんなヘマをやらかしたのだろうか。
次に、バンディングがやはり少ないながらも散見されること。今までBDで見てきたフルデジタル製作のアニメに比べればヱヴァ序のバンディングは限りなく少ないが、皆無ではない。とはいうものの、バンディング皆無ということで画質評価15点を付けた『時をかける少女』はそもそもバンディングが出にくそうな画だったため、ヱヴァ序の画でこれだけバンディングを押さえ込んだことはむしろ賞賛に値するともいえる。
というわけで、実際の画質についてだが、まさにデジタル時代にあるべきアニメの画質の理想形と言える仕上がり。“セル”やら“フィルム”やら、かつてアニメを作る/見るうえで物理的に必要だったものが介在しないため、デジタル時代のアニメは必然的にクリエイターの脳内映像を直接見るという行為に限りなく近づく、極限の透明感、ダイレクト感がある。
1.01のDVD化の際にも物議を醸したが、製作者――もといあの古典的ヲタな監督は一体何をソフト購入者に見せたいのか?ということが重要である。“劇場での鑑賞感を再現する”という美辞麗句の下、フィルムテレシネという本来必要の無い工程を経た、ある意味意図的に劣化させたモノを収録したのが1.01だった。監督には悪いが、正直言ってその発想は失笑ものだ。
何のためにオリジナルがあるのか。オリジナルのマスターがデジタルである以上、“劇場上映用のフィルム”といえば響きはいいが、単なる劣化でしかない。もはや劇場/フィルムはオリジナルではないのだ。フィルムライクフィルムライクと念仏のように唱えられているが、私が見たいのは“フィルム以前”の“オリジナル”だ。そして、今回のヱヴァ序のBDはその夢を理想的な形で叶えてくれたのである。
今回のヱヴァ序BDの画質に対し、“明るすぎる”・“セルのよさが無い”・“画面の奥行きが無い”などなど、一部理解しがたい声も聞こえてくるが、そもそもそういう画で作られた作品をそのまんまBD化しただけだろうに。かたやオーディオでは【原音再生】なんて大層な言葉があるってのに妙な話である。中にはオーサリングを担当したソニーのSBMVにケチをつける声もあるが、その暇があったら“SBMVを用いて目指されたオリジナルの映像”を作った庵野自身にケチをつけるべきだ。
とにもかくにも、色々と物議を醸しそうな画質ではある。フィルムライクという言葉をうわごとのように繰り返し、それこそ画質のあるべき姿であると信じきっているような方々がどのような反応を示すかも大いに気になる。
大幅に話が脱線したが、改めて言うと、私は今回のヱヴァ序BDの画質には最大級の賛辞を送るし、この画質傾向についても大賛成である。
そもそも、私はヱヴァとはディティールにこそ神が宿るアニメだと思っている。「レイとちゅっちゅしたいよ~」「おれはアスカと結婚した! 結婚したぞ!」というのも勿論魅力だろうが、過剰なまでに画面に氾濫する情報量、映像以外でも脚本・設定などなど、作品全体にみなぎる膨大なディティールこそがヱヴァの面白さの根幹であると思う。
で、テレシネなどという余計な工程を経ずダイレクトにデジタルマスターから収録することによって、全てのディティールを白日の下に晒すような透明感に満ち溢れた今回のBDの画質こそ、ヱヴァにとって最も相応しいものであると私は確信しているのだ。

音質について。(追記)
一聴すると映像に対応するマルチチャンネルとしての効果音、得てして戦闘音響の構築は飛びぬけて巧いわけではないし、音響の威力という点でもさして強くはない。むしろ、旧世紀版を意識してか、どこか効果音は鈍い/大人しい/古い印象もある。聴きこんでいくと、日常音響と音楽のサラウンドミックスは素晴らしい出来。質・量・アイデア全てが壮絶に高いレベルでまとまっている。
戦闘時のドンパチなどは少々あるべき音が不足している印象を受ける。特にミサイルや戦闘機などが“カメラの後方(画面の外)から/に向かって”飛来する際の音までは考慮が及んでいない場面がある。端的に言って、後ろから飛んでくるのに後ろから音がしないなど。そもそもの効果音の質についてはそれが作品の味ということで何も言わないが、ヱヴァの音響に唯一ケチをつけるとすれば、この飛来する物体の空間移動についてである。
さて、ヱヴァ序の音響をひときわ輝かせているもの、それは“声”だ。とにかく声が音響の根幹を担っているのだ。ヱヴァの面白さはその過剰なまでのディティールに宿ると前項で書いたが、音響の場合にそのディティールを加速させるのが声なのである。
オーディオをやっていると情報量という言葉をよく目にするが、ヱヴァ序の“声の音響”はそのようなオーヲタ間でしか理解されない“いわゆる”情報量ではなく、本当の意味での情報量に満ち溢れている。やたらイケメェーンなシンジ、ミサトさん、おなじみオペレーター三人組をはじめ、とにかく大勢の声が6ch全てに膨大かつ徹底的に割り当てられ、圧倒的な言葉の情報量と映像の情報量が重なり合う。驚天動地のヤシマ作戦、映像は勿論のこと、ヱヴァの作品世界の膨大な設定がオペレーターの声として読み上げられ再生され、その相乗効果でディティールはどこまでも加速する。
旧世紀劇場版でも声の使い方は面白かったが、新劇場版ではそれとは比較にならないほど重層・多層的になり、ひとつひとつの声それ自体の透明感も段違い、さらにはそこに付与された効果――何を意図した声なのか?ということも明確に把握できるようになっている。
全てのチャンネルから発せられる膨大な音“声”情報を完璧に再生できるか?
相当なレベルの明瞭さが求められるという点で、ヱヴァ序の音響はサラウンドに用いるスピーカーのベンチマークにも使えるだろう。
情報は加速する。
ディティールは加速する。
ヱヴァ序の音は声で加速する。
 

・追記:「明るすぎる」という声に対して

明度が高いと画面が全体的に白くなる

第三新東京市、もしくは世界観・心象風景の白々しさ・空虚さが出る

完璧じゃね?
 
 

・さらに追記
膨大なディティールを自分の中で再咀嚼するために色々見直して色々改稿
音質評価は13から14へ
音楽の使い方は飛びぬけて巧いわけではないとか書いてごめんなさい
物凄く面白いです
 
 

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