今となっては遠い昔……


 BDの登場前後はユーザーもメーカーも業界も全部ひっくるめて、とてつもなく盛り上がっていたように思う。Hなんとかとの規格争いも、今考えれば盛り上がるための材料だったと言えなくもない。
 2006年末の本格始動とともに映画会社から一斉にソフトが発売され、対応するAV機器は少々遅れたものの翌2007年には出揃った。特にAVアンプの世代刷新は質・量ともに今では考えられないほど凄まじく、オーディオの領域に足を踏み込んで間もない私でさえ、「何か物凄いことが起こっている」と肌で感じたものだった。

 ところが、4K BDあらためUHD BDは少々状況が異なる。
 今年の後半には製品が出るらしいが、端的に言って、ちっとも盛り上がっているように感じない。
 そもそもコンテンツのない状態で4K対応ディスプレイが先行した結果、既に4Kというもの自体が陳腐化してしまった、ということもあるかもしれない。
 そして遅れてやって来た真打であるUHD BDも、「最後の映像ディスクメディア」とか何とか、まるで始まる前から終焉の馨りを色濃く漂わせているような有様である。
 対応機器の活発なリリースもBDの時のようには期待できそうにない。プレーヤーにせよアンプにせよ、メーカーは減り、ラインアップは縮小し、はっきり言って製品自体の魅力も大いに減退した。特にプレーヤーに関して、国内勢は壊滅と言っていい惨状である。UHD BDが出てきたとて、もはや大手のレコーダーくらいしか製品の選択肢がなくなるのではなかろうか。悲しすぎる!


 一方で最近、Netflixの日本参入もあいまって、いよいよ「配信」という領域が注目を集めているようだ。
 黒船来航だとか映像コンテンツの流通革命だとか騒がれているが、私にしてみればそんなことはどうでもいいのだ。

 画質はどうなんだ画質は。
 音質はどうなんだ音質は。

 ハイビジョン画質だのHDR対応だの4K配信だの、口先とスペックだけならいくらでも調子のいいことを言えるが、実際のクオリティはどうなんだ。
 少なくとも私の経験上、BDと同等の画質を実現しているストリーミング映像は見たことがない。仮に解像度はBDと同じ1080Pでも、画質的にはBDと雲泥の差である。ビットレートの問題、ネットワークインフラの問題、理由は色々とあるのだろう。しかし、BDという既存のメディアの足元にも及んでいないくせに「高画質」なんて名乗るな、というのが私の偽らざる心情だ。
 たとえ4K配信になったところで、現状を見る限り極まった感のあるBDの画質を越えられるとは到底思えない。4Kというスペックが独り歩きするのがオチだろう。スペックの独り歩き……どこかで同じようなことを聞いたことがあるような。
 ましてや音質となればさらに絶望的だ。仮に仕様的には可能だとしても、映像配信でDTS-HD Master Audio 7.1ch 24bitを本当に採用してくれるのか。音声だけで10Mbps近いんだぞ。AACしか使わない? 馬鹿にするのも大概にしろ。


 私を含む、オーディオビジュアルに現を抜かす人種が本当に懸念しているのは、「はたしてUHD BDは普及するのか」ではなく、「現在のBD以上のクオリティで映像を楽しめるか」である。BDもそうだが、所詮UHD BDとて器に過ぎない。大切なのは中身の映像のクオリティである。
 そして最も恐れているのは、「UHD BDがまったく普及せずに終焉を迎える」ことではないし、「そもそも映像ディスクメディア自体が終焉を迎える」ことでもない。「映像ディスクメディアが死滅した時、もはや現在のBDから著しくクオリティの落ちた映像しか手に入らなくなる」ことである。これは恐るべき悪夢だ。単なる杞憂で終わることを切に願う。ネットワークインフラがボトルネックになっているとすれば、別に有線でも無線でも何でもいいからその拡充と高速化に期待するしかない。

 もしクオリティがディスクとともに滅びると言うのなら、私もともに滅びるだけだ。


 既にCDをことごとくリッピングしてネットワークオーディオなんてものをやっている手前、純粋にデータでコンテンツを扱うことのメリットは知っているつもりだし、ディスクがなくなること自体は別に構わない。というより、音楽にせよ映像にせよ、もはやディスクメディアの滅亡は既定路線になっていることも確かだろう。はたしてそれがいつになるかは分からないが。
 はじめから終焉を内包したUHD BDに私が期待するのは、ひとえに「現時点で可能な限り究極の画質・音質を実現すること」に他ならない。もっとも、音質はBDの時点でロスレス収録が可能になっているのでこれ以上伸びようがないのも確かだが。この際市場の拡大や業界の盛り上がりなんてものは二の次だ。どれだけ普及が伸び悩もうが機材が高かろうがソフトが少なかろうがさらにぼったくり価格になろうが、どのみち私のような人種はクオリティを求めて買うのだから。
 Netflixをはじめとする映像配信サービスが口先だけの空虚な「高画質」だの何だのを喧伝する時にその傍らに立ち、「その程度で大口叩いてんじゃねえぞ!」と彼らのケツをひっぱたくような、そんな存在にUHD BDはなってもらいたい。


 私はまだまだ満足しない。
 映像鑑賞の未来はどっちだ。