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「PCオーディオ対ネットワークオーディオ」という悲劇

 「PCオーディオとネットワークオーディオはどちらが優れているのか」という議論をことあるごとに目にする。
 そこで論じられているのはまず間違いなく両者の“音質”についてであって、残念なことに、私が言い続けている“快適性”という要素は影も形もないように思える。



 オーディオ業界やメディア、実際のユーザーが何と言うかは別として、私はネットワークオーディオの本質は“コントロール”であると考えている。
 それゆえに、私にとって【ネットワークオーディオ】とは、オーディオ機器としてのネットワークオーディオプレーヤーを用いる形態――“いわゆるネットワークオーディオ=狭義のネットワークオーディオ”にとどまらず、PCとUSB DACを用いる“いわゆるPCオーディオ”という形態も包括する。


 4年前にMAJIK DS-Iを導入した時、確かにそれ以前のCDPを上流に置いたシステムより音質が優れていたのは確かだ。しかし、それはあくまで私のシステムの場合であって、“ネットワークオーディオだから高音質”などとはまったく考えなかった。だいたいオーディオとはそんなに単純なものではない。


 私が【ネットワークオーディオ】という方法論に求めるのは、ひとえに“音楽再生における快適さ”である。


 音質ではない。


 よって、PCの再生ソフトと、それに対応するコントロールアプリの組み合わせが実現する快適性が、ネットワークオーディオプレーヤーを用いる場合を上回るなら、私は何の逡巡もなくハードを乗り換えるだろう。
 ただ、それはより快適な形態に移行するだけであり、狭義のネットワークオーディオからPCオーディオへ乗り換えたということではない。私にとっては、あくまで【ネットワークオーディオ】という領域内での変化である。たまたま再生機器がネットワークオーディオプレーヤーからPCとUSB DACに置き換わっただけに過ぎない。
 使う機材が変われば使いこなしも変わるのは当然のことだ。デジタル・ファイルとしての【音源】という巨大な共通項を持っている以上、PCオーディオだのネットワークオーディオだのと峻別して扱う必要性を感じない。あくまで“ソース”は同じ。音楽再生という大きなシステムの、プレーヤーの部分が変わるだけである。
 USBとLANではジッターがどうのこうのという議論もあろうが、私はジッターを比較するためにオーディオをやっているのではない。

 もっとも、あくまで現状ではネットワークオーディオプレーヤーを用いる形態の方が、トータルの快適性という点で優れているのは確かなので、当分乗り換えることはなさそうだが。


 何やら文章の着地点が見えなくなってきたが、とにかく私が言いたいのは「お互いもっと仲良くしようよ」ということだ。
 いわゆるPCオーディオの音質的な可能性を追求している人が、いきなり「LANストリーミングの方がUSB DACを使うより高音質」などと言われて頭に来るのは分かるし、逆もまた然り。
 とはいえ、PCオーディオにせよネットワークオーディオにせよ、【音源】を用いるのは同じ。なのに、DACやプレーヤーにばかり焦点が当たり、“音質”だけが論点になるのは非常に悲しい。


 一応言っておくと、私は【音源管理の精髄】で音質云々を問題にすることはないが(例の魔境は例外)、それは音質がどうでもいいからではない。そんな風に思うのならそもそもオーディオなんて趣味はやっていない。
 それはあくまで、ネットワークオーディオの本質は“コントロール”だと考え、またネットワークオーディオを通じて“音楽再生における快適さ”を手に入れるためには“音源の管理運用”こそ重要だと考えているからだ。
 総額1000万のシステムだろうが1万のシステムだろうが、ネットワークオーディオの方法論を用いることで、同等の“音楽再生における快適さ”を手に入れることができる。快適さを生む“コントロール”に焦点を当てた時、そこに“音質”という要素は介在しない。
 大事なのは、“いわゆるPCオーディオ”も、“狭義のネットワークオーディオ”も、“音楽再生における快適さ”を実現し得る大きな可能性を秘めているということだ。私が冒頭で述べた、コントロールの方法論として両者を包括する【ネットワークオーディオ】とは、まさにこのことである。


 仮に、オーディオ業界で一般的に語られるイメージに基づいて、“狭義のネットワークオーディオ”の側が「PCオーディオは上級者向き。ネットワークオーディオプレーヤーを使った方が簡単で快適」と言って憚らないとしたら、それは単なる不勉強からくる誤解に過ぎない。むしろ、それは【ネットワークオーディオ】の可能性を狭めることに他ならない。【ネットワークオーディオ】の可能性を追求する立場としても、「PCオーディオ=上級者向き、ネットワークオーディオ=簡単・快適」という、両者の対立を生む短絡的な姿勢は許しがたい。
 それに実際、“狭義のネットワークオーディオ”を推進するうえで、上記のように“快適”と喧伝するメーカーやメディアは、“いかにして快適性を実現するか”ということをまるで示せていないのだから、当て馬にされている“いわゆるPCオーディオ”の側もたまったものではない。となれば、「だったらこっちは音質で勝負だ!」となるのも分からないではない。
 こうして、また不毛な対立が繰り返される。


 「PCオーディオ対ネットワークオーディオ」という悲劇は、“快適性”という可能性を顧みず、“音質”にばかり着目するがゆえに起きる。
 音質を追求することを無為だと言っているのではない。
 どちらもオーディオである以上、音質の追求という命題からは逃げられない。
 ただし、それはそれ、これはこれ。どちらが上かでいがみ合ったところで仕方がない。
 互いに余計なちょっかいを出すことなく、それぞれで音質を磨いていけばいい。


 “音質”ではなく、“音楽再生における快適性”という視点で見れば、PCオーディオとネットワークオーディオの対立など、最初から存在しないのである。



【音源管理の精髄】 目次

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