BDスパイダーマン

【BDレビュー】第14回『スパイダーマン3』


 BDに収録されている映像の解像度は基本的に1920×1080、いわゆるフルHDである。
 そのフルHDという解像度の中で、すべてのBDは画質を競ってきたわけだが、その中には“一線を越えている”としか言いようのない画質を実現したタイトルが間違いなく存在する。
 『スパイダーマン 3』は、私が初めて出会った“一線を越えた”BDだった。

 BDが登場してからしばらくは、DVDとBDのあまりの画質差から、「BDはなんて高画質なんだ」という想いが先行した。高画質なソフトが現れるたびに感動しており、シビアに画質を評価できるほどに頭が冷えていなかった。そんな状況に強靭なクオリティでもって終止符を打ち、今に続く【BDレビュー】の画質音質における“満点”を打ち立てたのが『カジノ・ロワイアル』である。
 当時の私の画質に関する経験値から見て、『カジノ・ロワイアル』は完璧な画質を実現していた。映像ソフトはここまで綺麗になるものなのかと、本当に満足していた。

 そして、スパイダーマンのBDBOXが発売される。2007年の10月、まだまだBDの本格立ち上げから一年足らずであり、SPEがAVCを採用して素晴らしい画質を実現した『カジノ・ロワイアル』からあまり時間も経っていないタイミングだった。
 スパイダーマンの画質は素晴らしく、2の時点で、既に“満点”を付けてしまったほどである。2でこれなら、3ではいったいどうなってしまうのだろうか。
 言い知れぬ期待を胸に、私は『スパイダーマン 3』を再生した。
 そこで目にしたものについては、7年前の私の雄叫びを見てもらえば、まぁ何となくわかってもらえると思う。

 『スパイダーマン 3』の画質は一線を越えていた。
 当時の私には想像すらできなかった高画質がそこにあった。
 BDとは、映像とは、これほどまでに高画質になるものなのかと、目玉が飛び出す心持ちだった。
 この瞬間から、【BDレビュー】は“満点を越えた評点”を採用することになった。『カジノ・ロワイアル』の画質を満点の基準に据えたことは間違いだったとは思わないし、今でもその画質は十二分に通用するものだと確信している。しかし、『スパイダーマン 3』が実現した画質は、その基準をいともたやすくぶち抜いてしまった。ならば、“完璧のさらに上をいく画質”というものを、“満点を越えた評点”というもので表そうと考えたのである。
 こうして、『スパイダーマン 3』は、“10点=満点”は変えずに15にまで拡張された評点で、一気に14という評点を得ることになった。当時の私が受けた衝撃がいかに大きかったか、今でもありありと思い出せる。

 『スパイダーマン 3』の価値は、単にとてつもない高画質を実現したということだけではない。
 BDが登場してから一年と経っていないようなタイミングにも関わらず、BD――フルHDの“次”を示したこともまた特筆される。
 詳細はこの記事等に詳しいが、つまるところ『スパイダーマン 3』は“4K作品”だった。フルHDという言葉すらまだまだ普及していなかった当時にあって、既にその先を志向していたのである。これにはAV史的に計り知れない価値があろう。
 もちろん、BDのスペックはHDであるため、4Kのすべての情報量を収録することはできない。しかし、『リアル・スティール』『オブリビオン』といった、後の4K撮影のタイトルが身をもって証明しているように、HD以上の高解像度で製作された作品は、BDに落とし込まれたとしても、他の作品とは隔絶した画質を実現する。そして、そのことを初めて実感させたのが、『スパイダーマン 3』なのである。
 登場から一年も経たないうちに、BDにおける高画質の可能性は、想像を遥かに越えたレベルへと花開いていった。
 『スパイダーマン 3』の洗礼を受けたからこそ、後に続く『アイ、ロボット』『WALL.E』といったタイトルの傑出した画質についても、ただ大騒ぎして終わりではなく、厳密にその価値を把握することができたのだと言える。

 【BDレビュー】において、7年前に『スパイダーマン 3』に付けた“14点”と、最近『オブリビオン』に付けた“14点”。評点そのものは同じだが、実際の画質的には『オブリビオン』の方が遥かに上回っていると言わざるを得ない。長らく同じ評価基準でレビューをしていれば、こんなことも起こり得る。また、BDタイトルの画質が7年半の時を経て長足の進歩を遂げた結果、『スパイダーマン 3』の画質は、もはや“最高位”とは言えなくなった。
 しかし、これらの事実は、『スパイダーマン 3』の価値をいささかも損なうものではない。
 間違いなく、『スパイダーマン 3』が見せ付けた画質によって、映像メディアの画質は“HDのさらに先”という新たなステージへと突入し、そこに孕まれた4Kの胎動は、今まさに大きなうねりとなって我々の前に姿を現している。
 冒頭から度肝を抜いたコロンビア女神のあまりの美しさ、悔恨の砂原から立ち上がるサンドマンの無尽蔵のディティール、夜の摩天楼を切り裂くブラック・スパイダーマンの艶めかしい光沢、心躍る数多のシーンは美しい思い出となって、今も私の目に焼き付いて離れない。



BDレビュー総まとめ