【UHD BDレビュー】第62回『天気の子』





画質:9
音質:9
(評価の詳細についてはこの記事を参照)

映像:HEVC・HDR10(再生環境によってはDolby Visionと誤表示されるようだ ※)
音声:DTS-HD Master Audio 5.1ch 48kHz/24bit

※実際にDP-UB9000ではDolby Visionと判定されていた

 
○画質
 かつて『君の名は。』のUHD BDを「アニメ史上最高画質」と表現したが、とうとうその評価を受け渡す時が来たようだ。すなわち、『君の名は。』から、『天気の子へ』、である。
 解像感、色彩の豊かさはともに『君の名は。』を大きく凌ぎ、一方で解像感と引き換えに表れがちな描線の荒れも見られない。デメリットを感じることなしに、冴え渡る切れ味の良さを獲得している。
 そしてそれ以上に『君の名は。』から大きな質的変化を感じるのがHDRの活用。『君の名は。』におけるHDRはいささか控えめな、隠し味程度の使われ方との印象だったのに対し、『天気の子』はHDRを存分に活かした、それどころかHDRを前提にしたとさえ思えるような映像が頻出する。特に、薄暗く陰鬱とした雨天が陽菜の力によって晴れるシーンでは、まばゆいほどの光彩が画面を塗り替える。そこから受ける印象は、まさしく現実の雨天曇天から急に光が差す感覚、いわば「狐の嫁入り」がもたらすあの煌めきを思わせる。「輝度レンジの余裕を活かしたダイナミックかつリアルな感覚を呼び起こす映像表現」、これこそHDRの精華といえる。鮮烈な青空の中でなお鮮烈な陽光が差すシーンが放つ抜群のインパクトも、やはりHDRがあってこそ。
 最近になって『海獣の子供』という神懸かり的な高画質を実現したBDが登場し、『君の名は。』の玉座もいよいよ揺らいできたところだったが、やはり新海誠作品は強かった。かつて「映像体験におけるBDとUHD BDの決定的な差は、解像度の違い(2K対4K)よりも、UHD BDのマスターの差よりも、むしろHDRに拠るところが大きいと書いたが、『天気の子』はまさにこのことを実証した作品となった。
 ちなみに、デジタル制作のアニメながら「ツルテカ」な質感ではなく、ごくささやかな粒状感が画面に与えられているのは『君の名は。』と共通。そしてそれがノイジーに感じられることはないことも共通。

 なお、実際に『君の名は。』と『天気の子』ではUHD BDに入っているデータの時点でHDRの使い方の変化を確認できる。「最大輝度」と「最大フレーム平均輝度」に注目。
 上:君の名は。 下:天気の子

○見どころ
 晴れ
 

○音質
 「雨」が作品で大きな位置を占めるだけあって、全体的には『言の葉の庭』を思わせる音作り。
 雨/水の音を筆頭に様々な効果音がしっかりとしたこだわりをもって積み重ねられ、サラウンドも活用される。音楽はあまり出しゃばることはないが、確かな存在感を発揮してシーンに寄り添う。「グランドエスケープ」のコーラスパートを筆頭に、控えめながら音楽のサラウンド活用にも抜かりはない。
 が、銃声にせよ落雷にせよ空の上の風にせよ、稀に激しい音が鳴っても決して主役になることはないだけに、音楽それ自体が音響の主役になるようなシーン(要は歌が流れるシーン)においては、もっともっと存在感を主張してほしかったように思う。もっとも、それでも『君の名は。』に比べれば音響的にもパワーアップしていることは確かである。

○聴きどころ
 挿入歌

 
○総評
 UHD BDのクオリティには大満足。
 「日本の2Dアニメーションの4K/HDR」の新たな地平を切り開いたと思えるし、画質の最大瞬間風速こそNetflixで公開されている『Sol Levante』に譲るかもしれないが、一本の劇場公開作品として、このクオリティの画のUHD BDが出てきたことに驚きと喜びを禁じ得ない。

 あとは、売り方さえなんとかしてくれれば……

 
 
○再生環境(詳細はコチラ

・ソース
Panasonic DP-UB9000

・映像
LG OLED65C9PJA

・音響(センターレス6.1.4ch)
YAMAHA CX-A5200(AVプリ)
SOULNOTE A-2(フロント)
YAMAHA MX-A5200(フロント以外の全チャンネル)
Dynaudio Sapphire(フロント)
Paradigm Persona B(サラウンド)
Dynaudio Audience52(サラウンドバック)
ECLIPSE TD307MK2A ×4(トップフロント・トップリア)
ECLIPSE TD316SWMK2(サブウーファー)
 
 

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