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なぜハイレゾ音源を買うのか

 音がいいから、ではない



 私が「ハイレゾ」と言う時は、単に「CD以上のスペックであること」を意図している。
 「この音源には超音波が収録されている」とか「この機器は超音波を再生できる」とか「ロゴが付いている」とか「シールが貼ってある」とか、そんなことはクソほども考慮していない

 そもそも「ハイレゾ」とは「High-Resolution」、つまり「高解像度」を意味する。高低は相対的なものでしかないので、ハイレゾの高解像度とはすなわち「CD以上の解像度」という意味になる。音声をデジタル化する際のサンプリング周波数と量子化ビット数が解像度の指標になる。具体的にはPCMなら44.1kHz/24bit以上でハイレゾとなる。

 で、「マスターの時点でCD以上のスペックを持ち」、なおかつ「CD化や非可逆圧縮を経ていない」デジタルファイル音源が、「ハイレゾ音源」ということになる。
 マスターのスペックが192kHz/24bitの音源に関して、96kHz/24bitや48kHz/24bitなど、複数のバリエーションが用意されている(販売されている)ような場合もある。
 


 さて、なぜ私はハイレゾ音源を買うのか。



音源のマスターがアナログの場合:

 単純に考えれば、デジタルリマスタリングをCD相当の44.1kHz/16bitというスペックで行うよりも、例えば96kHz/24bitというスペックで行った方が、よりアナログマスター本来の情報量を引き出せるのではないか、という話になる。こうして「アナログマスターをデジタルリマスタリングしたマスター」が出来上がれば、あとは音源のマスターがデジタルの場合と変わらない。高いスペックで作られた音源がそのまま手に入るのなら、それに越したことはない。

 「元々がアナログ」なだけに、使用機材次第ではPCM 384kHz/32bitとかDSD256とか、猛烈なスペックでデジタルリマスタリングを行うことだってできる。この点で、「アナログがマスターのハイレゾ音源」は、スペックだけでなくリマスタリングそれ自体の効果も含めて、音質的に大きな可能性を持っていると言える。
 その一方、「より高いスペックでデジタルリマスタリングしました! また買ってね!」という売り方をされると、なんともいえない気分になる。

 「アナログマスターを最良の状態でデジタル化する」という観点から、「アナログマスターのハイレゾ音源」の価値は大きい。
 「過去の名作が高音質で蘇る」という話は(眉唾も多いが)あながち間違いではない。


 余談だが、「ユーザー自身によるアナログレコードのハイレゾ・データ化」は面白い試みだと思う。「レコードはレコードのまま聴け」と言われれば確かにそうなのだが……



音源のマスターがデジタルの場合:

 録音からマスタリングに到るまでCD以上のスペック、例えば192kHz/24bitというスペックで作られた音源を、CDのスペックにあわせて再加工せず、マスターそのままの状態で聴けるなら、それに越したことはない。単純明快。
 その一方、「今まで96kHz/24bitしか売ってなかったけど、実を言うとマスターは192kHz/24bitでした! そっちも出すからまた買ってね!!」という売り方をされると、はっきり言って、不愉快である。

 ただし、「元々がデジタル」なだけに、「オリジナルのデータよりもスペックが上昇する」ということは、「普通は」あり得ない。仮に「44.1kHz/16bitのマスターしかありません!」なんてことになれば、「そもそもハイレゾ音源になりようがない」というのが本来の姿である。マスター以前、ミックス前の素材にまでさかのぼってハイスペックなデジタル化を行い、そのうえでミキシングとマスタリングをやり直すというなら話は別だが……

 「元々CD以上のスペックで制作されたが、さらにアップサンプリング等を経てスペックを向上させた音源」はまだいい。しかし、「元々CD相当のマスターしかなく、アップサンプリング等を経てスペックだけはハイレゾ相当になった音源」をどのように考えるか(そもそもハイレゾと呼んでいいのか)は非常に難しい。「音が良ければすべてよし」と考えればいいのかもしれないが、アップサンプリングだのなんだのは手持ちのソフト/ハードでもできることだし、しかもそれを「売る」というのは……

 UHD BDでも似たような話があるけれど、映像に関しては色域とかHDRとか、解像度以外にも色んな要素があるから、まぁ……



 というわけで、「なぜハイレゾ音源を買うのか」という問いは、「なぜわざわざCDまでスペックを落とした音源を買わなければならないのか」という問いに繋がる。「なぜBDが出ているのにDVDを買わなければならないのか」と同じである。もちろん、再生装置があれば、の話ではあるが。



 なぜハイレゾ音源を買うのか



 音がいいから、ではない



 マスターがアナログにせよデジタルにせよ、「可能な限りマスターに近い音源が欲しい」から、すなわち「最初に作られたそのままの姿で音楽を聴きたい」からこそ、ハイレゾ音源を買うのある。

 LINNの言う「スタジオマスター」という言葉は、ハイレゾ本来の価値を考えるうえで極めて重要である。もっとも、「アナログマスターをデジタルリマスタリングしたマスター」をはたして「スタジオマスター」と呼んでいいのか怪しいので、使いどころが難しいのだが。


 「ハイレゾ音源であること」は、「CDに比べればマスターに近い」ことを意味しても、「高音質であること」は決して保証しない
 「音源がハイレゾか否か」は、「マスターそれ自体の音質差」を覆すものではない。「192kHz/24bitの音源は44.1kHz/16bitの音源よりも6.5306倍高音質」などという単純計算は成立しない。
 その辺のハイレゾ音源を薙ぎ倒すレベルで高音質なCDはざらにある。それどころか、同じ曲を聴いた時、CD用に加工した音源の方が、様々な理由でハイレゾ音源よりも高音質に感じられる可能性だって大いにある。 

 それでも、新規購入でも買い直しでも、「マスターに近ければ近いほどきっと音も良いだろう!」という希望にすがって、ハイレゾ音源を買うのである。
 今までCDの形でしか手に入らなかった音源が、CD化を経ない本来の姿で手に入るのだから、音質面で期待するなというほうが無理な話だ。さらに、「好きな音楽をいい音で聴けば、より深い感動を得られる」という思考が私の中で強固に出来上がっている以上、より良質な音源が手に入る可能性がある限り、買わずにはいられない。


 元が良ければ、CDでは収めきれなかった音楽の妙が顕わになる。これぞ、ハイレゾ音源を聴く醍醐味である。
 元が駄目なら、駄目っぷりが際立ってさらに悲惨な気分を味わう。これまた、ハイレゾ音源を聴く醍醐味である。

 もし「酷い音のハイレゾ音源」があるとしたら、それは「音源本来の酷さを余すことなく収録している」という意味で大きな価値を持っているのである。



 今になって思うのは、CD(44.1kHz/16bit)とハイレゾ音源の関係は、BDとUHD BDの関係によく似ているということだ。

 UHD BDを見れば確かにオオッと思うが、BDが著しく劣っているわけでも、BDで満足できないわけでもない。下手なUHD BDを凌駕するクオリティのBDだってざらにある。最近ではUHD BDのクオリティがBDを完全に引き離しつつあるようにも感じるけど。

 音源「だけ」を気にしたところでどうにもならない。「最終的な再生品質は、ソフトそれ自体のクオリティだけでなく、機器を含めたトータルの再生環境で決まる」という至極当たり前の事実は、オーディオでもホームシアターでも変わらない。



「ハイレゾだから高音質」という幻想

「ハイレゾ」は本当に音が良いのか


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