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「自分の音源ライブラリ」の未来

 言の葉の穴を本格的に始めてまだ間もない頃、こんな記事を書いた。


ネットワークオーディオの現状と展望


 物凄く時代を感じて我ながらアレである。
 とにかく、記事の時点から3年以上、私も私なりに頑張ってきたので、当時の「現状」も少しは改善されていればいいのだが。


 その記事に、通りすがりの方からこんなコメントをもらっていた。
 重要なので全部引用する。

オーディオブリッジ(ネットワークプレーヤー)はPCオーディオやDAP用にライブラリを構築する習慣が出来ていてLANも当然完備された土壌の上で生まれた製品ですから、一部屋完結の日本の仏壇設置&物理メディアオーディオマニア達にはハードルが高過ぎ。
ライブラリ化する習慣の出来ている20~30代はPC作業しながらのデスクトップスタイルかDAPでしか聴かないので需要無し
10代はスマホのクラウド配信で完結してるのでローカルライブラリすら必要なし。音楽なんてそれぞれのクラウドサービスの提供する中でちょっと聴けば十分。或いはYoutubeやニコニコの流行り動画のオマケとしての音を聴くだけで満足するので音源収集の欲望も熱情も必要性も無し。
オーディオブリッジにしたってゼネラルユーザーに向けて出ている製品はローカルライブラリからの再生に特化した製品なんかよりラジオ含めたクラウド配信サービスを簡単に使う為の器として売られている。
CDを大量に集めて自分でライブラリ化するなんて言う大変な作業を厭わない人達って寧ろ少数派で、もう各社が提供するクラウドサービスの中で専用アプリを入れるだけで大量の音源にアクセス出来ないならそんな面倒な音楽なんて聴く気がしない!となっている。
DRMフリーの音源を集めてタグを編集して画像を埋め込んで、なんて事に価値を見出す人がどれだけいるか
データオーディオ時代に快適に音楽を楽しむと言う最低ラインは、過去全ての全レーベルのアルバムが統一されたクラウドにマスター音源の形で置かれてユーザーはブリッジでもPCでもスマホでも再生(操作)アプリを入れるだけで快適に選曲出来る事。勿論タグ情報やアルバムアートは表示デバイスの進化に合わせて常に最新最高の物に自動で更新されてユーザーは楽しむだけ。
そこまで出来て初めてポストCDと言える。データ形式がバラバラでジャケットも付いてるか付いてないかバラバラで大きさもまちまちで曲名すら書いてない様なCDパッケージ群が並んでいてもとても受け付けないだろう。そんな酷い状況なのがダウンロード音源の現状。リッピングしてCDDBに付けてもらっても同じ惨状。
かつてのCD全盛を経験して音楽鑑賞に特別な思い入れを持っている世代としてはCD棚の様に統一された美しいライブラリを求めるが、もう各社バラバラのクラウドサービス提供と言う分断された状況を変える事は無理だろう。下の世代はもう音楽への強迫的な入れ込みなんて無いのだから、業界的にも統一された高クオリティサービスを提供する力も魅力も無い。

純粋な音質追及の結果としてネットオーディオに挑むのは良いが、老人世代にこんな不完全な世界を薦めるのは酷、と言うか無意味。大人しく死ぬまで円盤回してれば良いじゃないか。需要がある分野でならテープだろうがCDだろうが新譜は出続けるだろう。
今のオーディオ業界が煽る「ネットオーディオ」は決して必然的な次世代の音楽鑑賞の潮流ではなく、CD全盛期の音楽文化に特別な思い入れのある「PC世代」の為のニッチな世界であり、CDに思い入れもなく音楽が必須のコミュツールでもなくPCも持たない様な次世代には無用の物
アナログがある限りこれからも残り続けるだろう物理メディア文化ともう音楽にはちょっと触れれば十分と言うクラウド文化の狭間でニッチに存在するプライベートなローカルライブラリ構築文化はもう風前の灯と言えるかも知れない。
音楽を聴く以前の、道具の手入れですらない情報整理の下準備に手間を掛けるなんて馬鹿らしい。それでもやらざるを得ないのが悲しいオーディオマニア
物理メディアの棚と心中したくないし、さりとてライトな音楽スタイルに落ちる事も出来ない。


 いつ見ても、震えるほどに正鵠を射た内容である。
 これほどまでに、気付いてはいてもあえて見て見ぬふりをしている現実に鋭く切り込んだ文言はそうそうあるまい。本当に素晴らしいコメントをもらったと今でも思う。


 私はこう返すしかなかった。

「データオーディオ時代に快適に音楽を楽しむと言う最低ラインは、過去全ての全レーベルのアルバムが統一されたクラウドにマスター音源の形で置かれてユーザーはブリッジでもPCでもスマホでも再生(操作)アプリを入れるだけで快適に選曲出来る事。勿論タグ情報やアルバムアートは表示デバイスの進化に合わせて常に最新最高の物に自動で更新されてユーザーは楽しむだけ。」
まったくもって仰る通りで、これこそ私が言う「コントロールの方法論」としてのネットワークオーディオの完成形であると思います。大事なのは音源/ライブラリであって、ローカルに置かれるサーバーというハードウェアではありませんから。いつかはこうなってほしいな、と思います。
ですが、「データ形式がバラバラでジャケットも付いてるか付いてないかバラバラで大きさもまちまちで曲名すら書いてない様なCDパッケージ群が並んでいてもとても受け付けないだろう。そんな酷い状況なのがダウンロード音源の現状。リッピングしてCDDBに付けてもらっても同じ惨状。」という現実があることもまた確かです。
ですから私は、「自分でやる」ことを選びました。誰かがやってくれるのを待つよりは、自分でできることをやったほうがいいと判断しました。自前でサーバーを立て、コツコツと音源を管理運用し、ライブラリを構築する。時間の無駄、馬鹿らしいと断じられてしまえばそれまでですが。
正直なところ、自分でも時々「なんでこんなことやってんだろ?」と思うこともありますが、それでもなお、自らのライブラリを作り上げる「楽しさ」が勝ります。私はこれを「楽しい」と思ってしまう、悲しいオーディオマニアなのでしょう

私が共有している内容がたとえ過渡期の混沌の中で生まれたバッドノウハウに過ぎず、いずれ完全に消え去っていくとしても(むしろ、本当の意味で音楽を楽しむためにはそうなったほうがいい)、とりあえず「ニッチな層」が「今」何かしようと思った際、僅かでも糧になればそれでじゅうぶんです。
私にとって大切なのは「快適な音楽再生」です。いわゆるオーディオなんてのは、それに付随する(少々いきすぎた)オマケみたいなものです。音にこだわりたいと思う人がこだわればいい。今までと何にも変わっていませんし、これからだって、どれだけ音楽そのものの地盤沈下が進もうが、「こだわりたい人」が絶滅することはないでしょう。


 はじめから現実はわかっている。
 世の中の大勢と相容れないこともわかっている。

 それでもなお、私はこだわりたかったし、だからこそ、ひたすらノウハウの蓄積・共有・発信に努めてきた。
 たとえそれが過渡期の混沌の中で生まれたバッドノウハウに過ぎず、いずれ意味を失い、ある時代の遺物として埋もれていくとしても、これからファイル再生&ネットワークオーディオを始めるユーザーが経験する必要のない苦労を回避し、現時点で苦闘しているユーザーが最短で最適解に辿り着くために、それなりの貢献ができたのではないかと思っている。……そう信じたい。


 で、なんで昔のコメントを引用してこの記事を書いたかというと、いよいよ「プライベートなローカルライブラリ=自分の音源ライブラリがクラウドライブラリに吹き消される瞬間」を予感させられることがあったからだ。


’17年7~9月の音楽配信売上、数量では前年割れも販売金額は1割増 – Phile-web


 とうとう日本においても、音楽ストリーミングの売り上げがダウンロードと完全に肩を並べた。詳細を見ても、「サブスクリプション/音楽」が右肩上がりで増えているのがわかる。

 「音楽を所有する文化」の相対的な衰退。日本ではまだまだCDが大半を占めているとはいえ、コメントで指摘された状況がさらに進展した格好である。オーディオ業界も決して無関係ではいられない。現にアメリカの音楽市場は売上の半分以上をストリーミングサービスが占めるようになり、しかも、その勢いを受けて「成長」すらしているのである。
 CDでもダウンロードでも、音楽を「所有」し、「自らの音源ライブラリとする」文化が今後どうなっていくのか定かではないが、今以上に興隆するなんてことにはならないだろう。

 さて、こうなってくると、自分で言うのもアレだが、「言の葉の穴の遺物化」もいよいよ本格的に始まったのではないかという感覚がある。


【音源管理の精髄】 目次 【ネットワークオーディオTips】


 今まで蓄積してきたCDを大切にし、それをデータ・ライブラリとして最高の形で生まれ変わらせるために、CDのリッピングは機械任せにせず自分の意思を反映させよう
 ダウンロードしたハイレゾ音源も、しっかりとタグを確認・編集し、最高の形で自分のライブラリに迎え入れよう。
 自分なりのルールで行った音源管理の成果をしっかりと活かせるように、使用するサーバーソフトにも気を配ろう。
 CDの記憶、あるいは「音楽を目で見る楽しみ」を維持するために、アルバムアートにもこだわろう。

 こんな感じの内容は、基本的に「自分の音源ライブラリ」の存在を前提にしている。
 もし、音楽を所有する文化が完全に消滅し、あらゆる音楽再生が音楽ストリーミングサービス経由で行われるようになったとすれば、特に【音源管理の精髄】の記事は意味を失う。
 まぁ、いつかはそうなるだろうことはわかっていたので、いよいよ終わりの片鱗が姿を見せた、というだけなのだが。


 ただ、「自分の音源ライブラリ」を構築し、活用する文化は、今後も相当な期間、ゆるやかに継続していくものと思われる。

 そう思うひとつめの理由は、単純に「有無」の問題。
 今まで「所有」していた愛する音楽がストリーミングサービスで聴けるかどうかはわからない。
 「二度と聴けなくなる」ことほど恐ろしいものはない。この場合、ある種の「保険」として、自分でも音源のデータを持ち、再生できる環境を用意しておくに越したことはない。

 ふたつめは、「音質」の問題。
 この記事ともちょっと被るが、「現状で実現している質」を下げてまでストリーミングサービスに移行するのは嫌だ、という層は(私も含めて)一定数存在する。
 しかし音楽に関して言えば、TIDALがTIDAL MastersでMQA配信を始めたり、QobuzがFLACのハイレゾストリーミングを始めたりして、音質の問題は非常に高いレベルで解決しつつある。CD品質(=ロスレス)で流してくれるだけで私は満足なのに、それ以上の品質で流れてくるなんて夢のような話である。
 PCMだけじゃなくて今まで集めてきたDSDの音源はどうすんだ、という問題も、そのうちなんとかなるんじゃないか。いや、どうだろう。DSD256のビットレートなんて22.5792Mbpsだし、配信してくれるサービスなんて出てくるかな……

 本当はさらに「管理」の問題が加わるはずだった。
 どこかの誰かが構築したクラウドライブラリには自分の意思を反映させることができず、自分にとって理想的に仕上げられたライブラリと比べて著しく使い勝手で劣る、というものだ。
 しかし、この問題はRoonがほとんど解決してしまった。それなりに手間はかかるが、やってやれないことはない。
 

 というわけで、音楽ストリーミングサービスが古今東西のありとあらゆる音楽(同一音源の別バージョンも含めて)を完璧かつ完全に網羅できない限り、「自分の音源ライブラリ」を構築する文化が完全に消滅することも、その価値が失われることもないだろう。

 10年後や20年後がどうなっているかはさておいて、やはり「今」はまだ、音源管理のノウハウは必要だ。

 特にRoonにおいて顕著だが、最近のシステムでは既に「ローカルの(=自分の)ライブラリ」と「クラウドの(=音楽ストリーミングサービスの)ライブラリ」を統合して扱えるようになっている。自分の所有する音楽を起点として膨大なクラウドのライブラリを巡り、まだ見ぬ音楽との出会いへと導く仕組みも出来上がっている。
 結局のところ、「自分の音源ライブラリ」を持っていた方が、音楽ストリーミングサービスを利用する時でさえ、より豊かな体験ができるようになっているのである。


 「自分の音源ライブラリ」の未来は、それを構築する文化もあわせて、必ずしも明るいとは言えない。
 それでも、自分なりのルールに基づいて構築された「自分にとって理想的なライブラリ」がもたらす恩恵は、今なお計り知れない。

 「どうせいつか無駄になる」と何もしないよりは、「今を最大限楽しめるように」手を尽くした方が、「快適に音楽を聴きたい」という希望を叶えられる。
 昔も今も、私はそう思う。



【音源管理の精髄】 目次 【ネットワークオーディオTips】

【レビュー】 視た・聴いた・使った・紹介した機器のまとめ 【インプレッション】

【Roon】関連記事まとめ

よくある質問と検索ワードへの回答

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