オーディオ・ビジュアルの領域において、ハードの画質音質を評価するためにはソフトが必要になり、ソフトの画質音質を評価するためにはハードが必要になる。

 私は頻繁にハードを買い替えられるような資金力など持ち合わせていないため、ハードはある程度固定されている。特に現在使用しているスピーカーについては、数年やそこらで移り変わるものではない。
 しかし、ディスプレイ(テレビまたはプロジェクター)やAVアンプなど、相対的に買い替えサイクルが短いハードについては、個人的に評価する機会もそれなりに多い。

 今まではその時々でなんとなく思い付いたソフトを片っ端から試していたわけだが、いかんせんそれでは統一された視点から評価できない。
 そこで、AVに使う音響機器における他ならぬ私自身の評価基準とするため、音質のリファレンスとして用いるBDを選ぶことにした。BDの本格的なローンチから10年目を迎えて、今まで評価してきたBDの総決算をするという意味もある。

 というわけで、音質編である。
 死ぬほど悩んで、悩んで、悩んで、この10本を選出した。


20160319音質リファレンス10選


 なお、視聴はピークで100dBほどの音量で行っている。



『鴉 -KARAS-』

 日本代表。
 主な聴きどころはチャプター1、オープニング。
 私のサラウンド原体験であり、腐るほど見てきたゴールデン・リファレンス。
 国産作品ではそうそう体験できない露骨かつ猛烈なサラウンドの活用と移動感、壮麗な劇伴と効果音の絡み、どれだけの興奮を生み出せるか。



『ヘアスプレー』

 あらゆる音楽ものの代表として。
 主な聴きどころはチャプター18~19、あるいは特典のミュージック・チャプターから、You Can’t Stop The Beat。
 心躍るテンションと完璧の調和の元に7.1chから炸裂する音楽と歌声。
 体を動かしたくならなければ真実ではない。



『ブレイブハート』

 人馬と剣戟の音の代表として。
 主な聴きどころはチャプター11、スターリングの戦い。
 モロ出し→矢の斉射→ケツ出し→矢の斉射→騎馬突撃の一連の流れは映像的にも音響的にも最高のシーンのひとつ。静から動へ、劇伴の展開とともに徐々に徐々に重苦しく激しく迫り来る騎馬との激突から、両軍入り乱れての死闘をいかに鬼気迫る音で聴かせるか。
 あとはチャプター21、至高のクライマックスで音楽再生の実力を端的に試すのもいい。
 本作は画質においてもリファレンスたり得るが、涙を呑んで音質で選出した。



『プライベート・ライアン』

 もはや説明不要、ありとあらゆる戦場音の代表として。
 主な聴きどころはチャプター2~4、オマハ・ビーチ上陸戦。
 現代的なマルチチャンネル・サラウンドを構成するすべての音要素が最高の構築美と最大の威力で詰め込まれている。
 チャプター16~18の対戦車市街地戦も壮絶で、音のバリエーションはむしろこちらの方が豊富。



『英国王のスピーチ』

 「声」の代表として。
 主な聴きどころはチャプター17、世紀のスピーチ。
 生体器官が出す声のあらゆる質感を克明に捉えた圧巻の作品。世紀のスピーチにおいては、劇伴との絡みとともに、シーンごと(収録現場か、ラジオからの音声か、どこのラジオか……)の声の質感の描き分けを聴く。



『ローン・サバイバー』

 音響構築の究極例として。
 主な聴きどころはチャプター7、遭遇からの銃撃戦。
 銃撃の威力はもちろんだが、極まった空間の精密さ・包囲感・定位感、そして冷徹なまでの精緻さが生み出す絶望感を聴く。
 本作は画質においてもリファレンスたり得るが、涙を呑んで画質で選出した。



『GODZILA』(北米盤)

 物理的にでかい音の代表として。
 主な聴きどころはチャプター10~11、咆哮と激突。
 問答無用で襲い掛かる激烈な重低音。
 下手な再生環境では、MUTOの前にまずシステムが死に、部屋が負ける。



『AKIRA』

 日本代表その2。
 主な聴きどころはチャプター2~3、欲しけりゃな、お前もデカいのぶんどりな。
 恐るべき威力と構築美を伴って全チャンネルから爆裂し脳内麻薬を噴出させる劇伴「Kaneda」と暴走する金田たち、劇伴「Battle Against Clown」のおどろおどろしさと金田バイクの疾走。
 本作については頭がおかしくなってナンボである。



『ノーカントリー』

 印象深い銃声の代表として。
 主な聴きどころはチャプター8、邂逅。
 ヒュボッ!
 静寂を切り裂く銃撃の威力・鋭さ・重さ、そして何より存在感。スピーカーとアンプの瞬発力が試される。
 空間における銃声の巧みな移動も素晴らしく、サラウンドの確認にも大いに使える。



『レッド・ドラゴン』

 「声」の代表その2。
 主な聴きどころはチャプター1~2、冒頭~オープニング。
 冒頭のオーケストラからしてなかなか迫真の音を聴かせるが、それに続く神経が焼け付くような圧巻のダイアローグが真髄。
 ハンニバル・レクターはただ言葉を聴かせるのみで相手を精神的に支配する術を心得ている。それを単なる設定としてではなく、真に実感させ得る声を再生できるかが問われる。



惜しくも選外
『キングダム・オブ・ヘブン』
『ランボー 最後の戦場』(北米盤)
『U-571』
『インデペンデンス・デイ』
『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』
『善き人のためのソナタ』
『オペラ座の怪人』
『かぐや姫の物語』
『紅の豚』



 UHD BDが登場し、その先に8kが控える画質とは異なり、音質についてはBDでロスレス音声が収録できるようになった時点で行き着いた感がある。
 特に意識したわけではなく、気付けば10本の中にDolby AtmosやDTS:Xといったオブジェクトベース音声のタイトルは入らなかった。とはいえ、仮に環境を構築してフルにオブジェクトベース音声を再生できるようになったとしても、これらのタイトルに取って代わることはたやすいことではない。
 いい画といい音が両立してこそのホームシアターである。
 高画質や大画面だけに注目するのではなく、今後もずっと、音も大切にしていきたい。



リファレンスBD10選・画質編

【BDレビュー】 総まとめ